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16、第14話:彼女の気持ち ...
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『僕は最低だ。僕は……湯瀬さんを傷つけた』
電話の向こうから聞こえたのは雄輔の動揺した声。
俺は頭を抱えながら、ため息交じりに、
「今どこにいる?」
『駅前の公園だ』
「今からそっちにいく。いいか、そこを動くなよ」
俺は駅前公園へ向かう途中にコンビニで雄輔の好きな紙パックのコーヒーを買う。
俺としては缶コーヒーは飲まないタイプだから、滅多にこういうのは購入しない。
俺はその代わりにオレンジのジュースを買うことにした。
そうして、10分くらいしてから現場につくと1人携帯を見つめる雄輔がいた。
「どうしたんだよ、お前」
俺は買ってきたコーヒーを雄輔に渡す。
彼は「ありがとう」と言ってからコーヒーを飲み始めた。
梓の時もそうだったが、人は動揺している時に何かを飲ませると効果があると聞いたことがある。
精神的に何か別の事をさせ、意識をそちらに向けさせて少しは落ち着くと言うワケだ。
やがて、落ち着きを取り戻した雄輔が語りだした。
「……僕は嫉妬したんだよ」
「誰に?」
「未来に、いや、彼女の口から出てくる他の男の名前にかな」
彼の話は男としてはある程度理解できる内容ではあった。
2人になってからそれとなくいい雰囲気ではあったが、梓との会話は俺や留美の友人達の話ばかりで、雄輔と梓本人の話は中々出てこない。
挙句に後半は俺への話ばかりになってしまった。
どうせ梓が緊張して異性の話をしようにも話題がなく、親しい俺の話をしていただけだとは思う、というかあの子には俺に対してそれ以上の気持ちはないはずだからな。
だが、雄輔にとって見れば面白くないだろう。
それを真に受けて嫉妬した、というわけか。
「バカだな……。嫉妬する前にお前から話題を振ればよかっただろうに。自分が何もしないくせに他人の言葉に嫉妬するって、まぁ、ちょっと呆れる話だ」
「わかってるよ。でも、未来にだってわかるだろ。もしも水崎さんや神保さんが他の男の話をするのは嫌に決まっている」
「ああ。男としてはお前の気持ちもわかる。それでも我慢するべきところだろ。それで嫌われたら本末転倒、意味がない。さっさと謝った方がいいぞ?」
「できない……」
意外、というか驚きだが、彼は否定の言葉を口にする。
おいおい、どういうつもりだよ。
「まさか、この程度で嫌いになったとか言うワケないだろうな?」
「違う。そうじゃない。彼女の事は好きだ。だからこそ……僕は湯瀬さんに近づけない」
「また同じように傷つけてしまうのが怖い、か」
彼は俺のその言葉に頷く。
雄輔のとった行動も、気持ちも同じ男としては同感する。
誰も好き好んで好きな子を傷つけたりしたくないだろう。
よくある悪循環のパターンに入りかけている。
これは何とかしてやらないと、まずい事になるぞ。
「しょうがないな」
「未来?」
俺は携帯電話をポケットから出すと留美の番号に繋げた。
すぐに彼女が出て、心配そうな声で俺に尋ねてくる。
『雄輔いた?』
「ああ。駅前の公園はわかるか?駅のバス停の横にある公園だ。今すぐ梓をつれてここにきてくれ」
『わかった。すぐに行く』
電話を切った俺を雄輔は焦った様子で言葉をかけてくる。
「どういうつもりだ?」
「どうもこうもないさ。お前は梓を傷つけた。だから、謝れ。それで全てがすむだろう?」
「そういう単純な問題じゃないだろ」
いつも彼らしくない行動、言動、それだけ追い込まれているという事だ。
だからこそ、俺はあえて強攻策を選んだ。
「単純だよ。お前のしようとしているのはただの逃げだからな。お前が傷つくの怖くて逃げるのは、傷つけた彼女に対してみっともないと思わないのか?」
「それは……」
雄輔は答えられずに俯いた。
「俺は……逃げてしまう事で、もう取り返しのつかないところまで来ている。雄輔にはそういう意味で逃げて欲しくない。前向いて進まないと、意味がない」
俺は留美から逃げて、舞と関係を持ってしまった。
「ホントに好きならいい方向に進みたいだろ?」
その結果、俺達はもう大切なものを失う直前まで来てしまっているのだから。
5分もしないうちに彼女達はやってきた。
沈んだ表情の梓とそれを支えるようにしている留美。
俺は雄輔と梓を近づけさせてから、留美の手を引いて、
「俺達は先に帰る。あとは2人で話し合えよ」
「お、おい。未来……」
「雄輔、しっかりしろよ。梓も雄輔の話を聞いてやってくれ。それじゃな」
呆然とする雄輔だが、梓と2人になる事でハッとしたように真剣な顔になる。
覚悟、決めたかな。
俺達はそのまま公園の外まで歩いていく。
「このままでいいの?」
「最後まで見ていくに決まってるだろ」
「だよね」
俺達は公園の反対側に回って、こっそりと隠れて二人の様子を見守ることにした。
ベンチと木の陰に挟まってここからなら向こうから見つけられないはず。
「ねぇ、梓と雄輔ってどうして喧嘩したの?」
「ちょっとした事さ。人に恋してるときって結構周りを冷静に見れないからな」
「そっか……」
ふいに俺の手を握り締める彼女。
その顔はどこか不安そうな表情をしていた。
俺と留美との関係でも考えているのかもしれない。
俺にはすでに手を振り払う気はなかった。
今、なぜか彼女の事をほんの少しだけ好きにさせてやりたい気になったのだ。
大切なものが崩れるのは予想できる痛みではないのだと、俺は雄輔を見て改めてそう思うから……。
「梓、大丈夫かな」
「ま、その辺は見ていればわかるさ」
俺は彼らの心の繋がりっていうのを信じたい。
雄輔は落ち着かないよう様子ながらも梓を見ている。
「……ごめんなさい、雄輔君」
先に頭を下げたのは梓の方だった。
「え……」
「私が悪かったんだと思う。雄輔君のことを怒らせちゃったのは、私がいけなかったからだよね。私、2人っきりで男の子と遊んだことなかったからどうしたらいいかわからないくて。おかしいよね、今までずっと仲良くしてきた相手なのに緊張しちゃうなんて」
「そんな事ない。それは僕も同じだったから」
今度は雄輔が「ごめん」と彼女に謝った。
「これは本人に言った事ないんだけど。私さ、未来君をお兄ちゃんみたいに思ってるんだ。彼って包容力があるし、優しいじゃない。ついつい甘えちゃうみたいな」
彼女は微苦笑しながら、雄輔に話していた。
お兄ちゃんって、アイツそんな事思ってたんだ。
それこそ初耳だが、梓の言う気持ちは俺も分かる。
留美、梓、悠里の3人は俺にとっては妹のような存在だ。
唯一、対等なのは舞だけだった。
「だから、そんな未来君に対して信頼があった。でも、恋愛感情とは違うの」
「湯瀬さん……?」
「私は……私が恋愛しているのは雄輔君だから」
おいおい、まさかこの展開は……。
彼女は真っ直ぐに雄輔を見つめながら、
「私と付き合ってください」
そんな告白の言葉を口にした。
予想外というかまさかこのタイミングで告白するか?
俺と同じく戸惑いの表情の雄輔。
何がどうなれば、傷つけたばかりの相手に対して告白できる?
「ホントに告白しちゃった……」
隣の留美が俺の手を握り締めたまま、そんな事を言った。
その頬は少し紅くなっている。
そりゃ、目の前で知り合いの告白シーンなど見せられたら恥ずかしいよな。
「まさかお前の差し金か?」
「そういうつもりじゃなかったんだけど。雄輔が梓にキツイ言葉を言ったのは多分、嫉妬したんじゃないかって思ったの。その前に彼女が言ってたんだ。未来君のことを話していたら怒っちゃったって。だから、嫉妬するってことは好きなんじゃないのって」
嫉妬=好きというのもどうかと思うが。
まぁ、実際今回の場合はそうだったんだけどな。
留美の直感は大当たり、で梓が雄輔に告白したのはそんな留美の言葉を鵜呑みにしたということか?
「どちらにしても、今日告白するつもりだったみたい。未来君も留美も手伝ってくれてるんだからそのチャンスを逃したくない。そう言っていた」
そっか、彼女なりに覚悟を決めていたんだな。
だったら、けしかけた側としても最後まで見届けなくちゃいけないな。
「……あの、でも僕は……湯瀬さんを傷つけたじゃないか?」
「貴方が本気で怒ったんじゃないって、それぐらいはわかる。嫉妬してくれたんだよね。それだけ、私の事思ってくれてたんじゃないの?」
「いや、それは……そうだけど。まぁ……想ってるというか」
はっきしろよ、お前の気持ちはわかるが傍から見たらすごいカッコ悪いぞ。
彼は大きく1つ深呼吸してから、梓にささやいた。
「……僕も湯瀬さんの事は好きだ」
「ホントに?よかった……。ここまで来て私の勝手な勘違いだったらどうしよって思ってたの。だったら、私バカみたいじゃない。ホントによかった……」
「でも、ホントに僕なんかでいいのかな?」
「……うん。ベタかもしれないけれど、私は雄輔君がいい」
その笑顔はまるで子犬の潤う瞳のごとく愛らしい微笑みだった。
やばい、俺もあの笑顔なら恋しそうだ。
彼らが抱き合う所を見ながら、俺は一安心のホッとしたため息をつく。
ま、これでなんとか2人はうまく言ったと言うワケだな。
ようやくと言っていいだろう、2人を応援していただけに俺も嬉しくなる。
なんか急展開すぎて、いろいろ驚いたけれどな。
でも……、1番なのは2人が幸せになれることなんだし。
俺達は隠れている場所から離れて駅に向かって歩くことにした。
「……さて、俺達も帰るか」
「うん」
と、その前に……俺は携帯電話で梓にメールをうって送る。
「何してるの?」
「ちょっとした俺からのプレゼントかな」
そう、真実と言う名前のね。
俺が梓に送ったメールの中身はこうだった。
『お付き合いおめでとうございます。先日の官能小説の件ですが、あれは雄輔のです。ああいう“趣味”なので付き合う際にはある程度“覚悟”しといた方がいいですよ』
いや、別に羨ましいなんて思ってませんが、これくらいはさせてもらおう。
俺って親切なヤツだな。
「雄輔君ーッ!!!」
遠くの方で誰かの叫ぶ声が聞こえた気がしたが気のせいだ。
留美は不思議そうな顔で見ていたけれど、やがて小さく笑みを見せながら、
「作戦成功、やったね」
「留美のおかげだよ。俺と留美にかかればできないことはないよな」
「そうだね」と嬉しそうに留美の見せた笑みは梓と同じくらいに魅力的な笑みだった。
やっぱり、コイツとは相性だけはいいよな。
こんな時間が続いてくれればいいのに、と俺はそう思う。
こうして、俺達の長い日曜日が無事に(後に雄輔から苦情あり)終わった。
あの後、留美と家の前で別れた俺は自分の家に帰ろうとしていた。
「……あれ?」
俺の家の前に人影、誰かが待っている。
「おかえり、ミクちゃん。……るーちゃんと一緒だったんだ」
そこにいたのは舞、どうしてこんな所にいるんだろう、俺に用か?
「あ、ああ。そうだけど、どうしたんだ?用があるなら連絡してくれたらいいのに」
「ちょっとミクちゃんに会いたくなっちゃって。ねぇ、今から時間あるかな?」
「あるよ。とりあえず、家に入るか?」
「ううん。私行きたい所があるから……ついてきてくれる?」
俺は舞の様子がどこか変だなと思いつつも彼女に従うことにした。
こうしてわざわざ彼女が俺に会いに来てくれたのだ。
男として嬉しくないはずがない、それこそもうスキップしたくなるくらいに。
彼女が俺を連れてきたのはあの神社奥の場所。
『……“今だけ”は“私だけ”のミクちゃんでいて』
花火大会のとき、俺達はここから一線を越えたんだよな。
何だかつい最近の事なのに懐かしい感じがする。
そんな気楽な気持ちの俺とは違い、舞は真剣な様子だった。
「それで、ここに連れてきてどうするんだ?また夕焼けでも見る?」
彼女は首を横に振り、俺にゆっくりと告げた。
「ミクちゃん、あの時の告白の答えを伝えるね。……私は貴方の恋人になるわ」
「……え?」
そして、俺達の止まっていた時間が本当の意味で動き出した。
【 To be continue… 】
☆次回予告☆
舞の告白。
それは未来にとって望んでいたはずの答え。
だが、彼の胸に去来するのは留美の言葉。
全く悩むはずがなかった。
なのに、あの頃と少し違う自分の気持ちに未来は悩む。
【第15話:恋人《前編》】
好きという言葉を待ち望んでいた。
……なのに。