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26、二十六 “让治先生 ...
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读者诸君,通过前回的原委,你们应该已经预料到我和娜奥米之间很快就会破镜重圆吧——并非不可思议,这是理所当然的、意料之中的事情。事实上,结果确实如诸君所料,但事情发展到这一步确实出乎意料地麻烦,我也做了很多无用功。
从那以后,我和娜奥米很快就复合了。说来,第二天晚上、第三天晚上……娜奥米每晚都来拿东西。
她一定会上二楼,整理出些细碎的东西,包在缩缅制的帛纱包里,然后下楼来。
“今晚你来拿什么?”我问她。
“这个?没什么,只是一些小物件。”她暧昧不清地回答。“我口渴了,能帮我泡杯茶吗?”
她在我旁边坐下,聊了二三十分钟就离开了。
“你住在这附近吗?”一天晚上,我和她对坐桌前,喝着红茶问。
“你为什么问这个?”
“打听一下也没关系吧。”
“可是为什么问呢——就算你知道了也无济于事吧?”
“确实做不了什么,我只是出于好奇才问的……额,你住在哪里呀?告诉我吧,不行吗?”
“不,我是不会说的。”
“为什么不说?”
“我没有义务去满足让治先生的好奇心。既然你这么想知道,那就来跟踪我吧,秘密侦探是让治先生的拿手好戏。”
“我倒是不愿这么做……不过,我觉得你的住址一定在附近。”
“诶,为什么?”
“你不是每天晚上都来拿东西吗?”
“每晚都来不一定住在附近呀,还可以坐电车或汽车。”
“那你是特意远道而来的吗?”
“这个嘛,怎么说呢……”她停顿了一下,巧妙地岔开话题,“你的意思是每晚来不好?”
“不是不好,只是……我叫你不用来,你不理会,硬是找上门来,事到如今也没意义了……”
“那是当然了,我是个坏心眼的人,叫我别来我非要来——而且,你恐惧着我的到来?”
“嗯,这个……也不是不害怕……”
她突然仰头,露出雪白的下巴,张开红唇咯咯大笑。
“不过没关系的哟,我不会做坏事。比起这个,我更希望忘掉过去的事,与让治先生以朋友相交。呐,可以吧?是不是一点都不碍事?”
“这也太奇怪了。”
“有什么奇怪的?昔日的夫妇为什么不能成为朋友呢?觉得可笑是旧式过时的想法——我对以前的事真的一点都不感兴趣。即使是现在,我依然可以轻而易举地诱惑让治先生,但我发誓,我绝对不会做那种事。动摇让治先生好不容易下的决心,真是太令人爱怜了……”
“那,你是因为可怜我才和我做朋友?”
“我不是这个意思呀。让治先生不需要被人怜悯,坚持自我就好。”
“奇怪,虽然现在已经下定决心了,但和你在一起的话,说不定会越来越摇摆不定。”
“笨蛋呐,让治先生——你不愿意和我做朋友?”
“啊,不要。”
“不愿意的话,我就诱惑你——我要把让治先生的决心蹂.躏得乱七八糟。”娜奥米的眼带笑意,既不像开玩笑,也不是一本正经,“干净利落地成为朋友,和被诱惑后惨遭毒手,孰优孰劣?——我在威胁让治先生哟。”
我当时就在想,这个女人到底是出于什么目的才和我做朋友的呢?她每晚都来找我,却不是单纯为了捉弄我,一定还有什么企图。是不是先做朋友,再一步步拉拢,最后以不投降的形式再做夫妻?
如果她的本意是这样的,那就算她不玩这么麻烦的策略,我也会毫无缘由地同意——我的心中已经熊熊燃起了与她结为夫妻的野望,绝对不会说“不”。
“呐,娜奥米,我们做普通的朋友也没有意义啊。既然这样,不如干脆像以前那样做夫妻,好不好?”
依据时间和场合,由我自己提出。不过从今晚娜奥米的样子来看,就算我正儿八经地敞开心扉求她,她也不会轻易地“嗯”一声答应。
“那种事我免了吧,除非做普通朋友。”
一旦被她看穿了自己的心思,说不定就会得寸进尺地开玩笑了。我难得的心意如果受到这样的对待,那就太悲惨了。
而且,首先,娜奥米的本意并不是要结为夫妻,而是让自己不论处于何时何地都能自由地活着,捉弄各种各样的男人,还想让我成为其中之一。既然她有如此野望,我便更不能妄言了。
现在的她连地址都不肯说,让我不得不推断她在外面还有个男人,如果这样不明不白地娶妻,我又得吃亏。
刹那间我三番思量,也笑嘻嘻地说:“那就交个朋友吧,我可受不了你的胁迫。”
也就是说,只要作为朋友交往,就能明白她的真意。如果她的心中还残存一点真意,我就把我的爱意全都倾吐,这样一来,我就有比现在更有利的条件向她求婚。
“那你答应了?”娜奥米似乎被我逗笑,“可是让治先生,我们只当普通的朋友哟。”
“啊,当然了。”
“双方都不要再考虑那些讨厌的事情了哟。”
“我知道——如果不这样我也会很为难的。”
“哼。”娜奥米照例耸鼻轻笑。
自从发生了这件事之后,她出入得更加频繁。
一日傍晚我从公司回来。
“让治先生。”她突然像燕子一样飞了过来,“今晚不请我吃晚饭吗?朋友之间也能请客吃饭吧?”
我请她吃西洋料理,大快朵颐后就回家。那晚似乎下了雨,很迟才回来,进了寝室却听见房门咚咚咚地敲。
“晚安,已经睡了吗?——睡了就不要起来了。我今晚打算留宿。”
她任性地跑进隔壁的房间,铺好被褥就睡了,有时早上起来一看,发现她还躺在那里,呼呼大睡。
另外说一下,她的口头禅是:朋友之间不分彼此。
当时,我深切地感到她是个天赋异禀的淫.妇。
为什么这么说呢?她本来就是个多情种,屁都不介意向男人堆展示自己的肌肤,在此之上,她平时里又非常懂得将自己的肌肤保密,即使是最细微的部分,也绝对不会让男人毫无意义地看到。
许给谁都行的肌肤,却总是隐藏着——在我看来,这是淫.妇的自我保护的本能。肌肤对淫.妇来说是最重要的“卖点”、“商品”,所以有时比起贞女对保护肌肤,她更丧心病狂,因为如果不这样做的话,“卖点”的价值就会逐步下降。
娜奥米很清楚这其中的微妙之处,在我这个曾经是她丈夫的男人面前,她更是把肌肤紧紧包裹。但也不是说完全严防死守,有时她会故意换衣服,让襦袢一落千丈——
“哎呀!”
她两手遮肩逃进隔壁房间泡澡,回来后坐在梳妆台前,裸裎袒裼,然后才恍然大悟。
“哎呀!让治先生,你可不能待在这里呀!你去那边吧!”
接着把我赶走。
像这样,娜奥米不时露出一小片肌肤,例如脖子周围、胳膊肘、小腿肚、脚后跟之类的。虽然只是吉光片羽,但她的身体比以前更加光洁,美得令人憎恶,不容忽视。
我屡屡在想象的世界里剥去她全身的衣服,饱食她的曲线之美。
“让治先生,你在看什么?”有一次她背对着我,一边换衣服一边说。
“欣赏你的身材,总觉得你比以前更水润了。”
“哎呀,真讨厌——不要看lady的身体。”
“我没看,是从衣服的轮廓大致明白的。虽然先前就很翘,但最近更鼓了。”
“是啊,鼓起来了,臀部渐渐变大了。不过腿就很修长,不是萝卜腿。”
“嗯,你还是孩子的时候腿就是笔直的,一站起来就紧紧地并拢贴着,现在还是这样吗?”
“嗯,贴着的。”她用衣服围住身体,站起身,“你看,肯定碰到了呢。”
那时,我的脑海中浮现出来的是罗丹的雕塑写真。
“让治先生,你想看看我的身体吗?”
“想看就给我看?”
“那可不行,你不是我的朋友吗——好了,在换完衣服之前,你先走远一点。”
砰的一声,她如同叩击我的后背一般关紧门。
就这样,娜奥米总是引诱着我的情.欲,吊着我的胃口,设立重重关卡,不让我越雷池一步。
我和娜奥米之间立着一堵玻璃墙,近在咫尺,远在天涯。如果胡乱出手就一定会碰壁,再怎么恼怒也碰不到她的肌肤。有时候娜奥米又出乎意料地去除了那堵墙,我暗自庆幸:哦呀,终于可以了吧?但一靠近还是像原来一样被拦住。
“让治先生,你真是个好孩子,来接吻吧!”她经常半开玩笑地这么说。
我明知道她会取笑我,但她的唇凑过来我还是会嘟起嘴巴,接触的瞬间她又会收回嘴唇跑掉,一下子从两三寸远的地方对着我的嘴吹气。
“这是朋友的吻。”说着,她微微一笑。
这种名为“朋友之吻”的奇怪的打招呼方式——不吻女人的唇,只需吸气就能满足的不可思议的吻——后来成了惯例,临别时——
“那拜拜了,我下次还会再来的。”
她把唇对着我,我便把脸伸到她面前,吸尘器般地张开嘴。她向我的嘴里呼出一口气,我闭上眼睛,深深地吸着,有如咽下珍馐佳酿。
她的气息潮湿而温暖,散发出一种甜花般的芳香,难以相信是从人肺里吐出——她为了迷惑我,偷偷在嘴唇上涂香水,当然这种机关那时候我不知道——我常常想,像她这样的妖妇也许连内脏都和普通女人不一样,通过她体内含在口腔里的空气,会不会都有这样一种妖艳的气味呢?
我的头脑就这样渐渐惑乱,任她尽情摆弄。
我现在已经没有闲情说什么“不正式结婚就不行”“我不想被捉弄”之类的话了。不,老实说,我一开始就知道会变成这样,如果真的害怕她的诱惑,不要跟她交往就行了。所谓试探她的真意,寻找有利机会,不过是自己欺骗自己的借口罢了。我虽然嘴里说着害怕,但说真心话,其实期待着被她诱惑。然而,她却一直重复着那个无聊的朋友游戏,再也不诱惑我了。
这大概是她宁愿不甘心也要让我焦躁的计谋吧。焦躁到快焦躁疯了的时候,便会突然脱下“朋友”的面具,伸出得意的魔爪!她肯定会出手的,她不是一心软就放弃猎物的女人,而我充其量只是被她的计谋所打败的俘虏。她要我喊“汪”我便学狗叫,要我“土下座”我就下跪,每天每天都仰仗她的鼻息,服从她的任何要求,最后总能得偿所愿的吧。
我的预想似乎不那么容易实现。今天终于要摘下面具了,明天又会有新的魔爪伸出,可到了那一天,千钧一发的时候她却一溜烟跑掉了。
这样一来,我就真的焦躁了。
‘我已经等不及了,想诱惑你就快点儿’——我几乎脱口而出。身体露出破绽,暴露弱点,结果反而是自己引诱对方。
但她一点也不垂怜。
“什么呀让治先生!那不就违背了约定吗?”她训斥我,眼神犹如责备孩子。
“约定什么的都无所谓了,我已经……”
“不行,不行!我们是朋友哟!”
“呐,娜奥米……不要说那种话……求你了……”
“嘛,太吵了!说了就是不行!这样……给你个kiss吧。”她照例吐出一口气,“嗯,可以吧了?不忍耐不行啊,已经友达以上了。但因为是让治先生,我就特别对待一下吧。”
这种“特别”的爱抚手段,反而会刺激到我异常的神经,绝不会使我平静。
“草!今天也不行吗?”
我越发焦躁,她却一阵风似的走了。
这段时间里,我什么事也没做,自怨自艾,自暴自弃,像被拴在笼子里的猛兽一样在房间里走来走去,把周围的东西摔得七零八落。
我确实为这种近乎疯狂的男性歇斯底里症的发作而烦恼——她每天都来,所以我几乎一日发作一次。我的歇斯底里也和普通的癔症性质不同,即使发作停止了,事后也不会感到轻松。更勿说心情平静下来后,头脑反而比之前更明了、更执拗地回想起娜奥米肉.体的一寸一分。
换衣服时从着物下摆探出的脚,吹气时靠近我两三寸的唇……空想远比现实更加撩人心弦,唇线、足线清晰地浮在眼前,不可思议的是,就连实际上看不见的部分也如底片显影一样渐渐显现,最终,黑暗的内心深处用大理石雕就了维纳斯像。
围着天鹅绒幕帷的舞台,有一个叫“娜奥米”的女.优闪亮登场。四面八方的照明灯都吻着她,雪白的身体在黑暗中摇曳生姿。我痴迷地望着她,她燃着光的肌肤越来越亮,甚至灼灼逼近我的眉毛。就像电影的特写,每个部分都被放大得异常鲜明……那个幻影竟然能以实感威胁到我官能,乃至与真品并无一丝不同,美中不足的是不能用手触摸,但其他方面甚至比真品更生动。
长时间凝视后,我感到一阵眩晕,全身上下的血液一下子涌上脸来,心跳加速,悸动不已。于是歇斯底里症再次发作,踢飞椅子,扯烂窗帘,打碎花瓶。
我的妄想日益狂暴,只要一闭上眼睛,黑暗背后尽是娜奥米。
我常常想起她那芬芳的气息,对着虚空张开嘴,大口呼吸那一带的空气。无论是走在大街上,还是蛰居在房间里,只要我一想念她的唇,就忍不住仰天长叹,“哈”地吸气。
我所见之处尽是娜奥米的红唇,所闻之处尽是娜奥米的气息。娜奥米就是一个充斥天地的恶灵,包围着我,折磨着我,听着我的呻.吟,笑着望着我。
“让治先生这段时间很奇怪,有点反常。”有一天晚上娜奥米来了,对我说。
“我快疯了,为你急疯了……”
“哼……”
“哼什么?”
“我会严格遵守约定的。”
“要守到什么时候?”
“永远。”
“别开玩笑了,这样下去我的脾气会越来越怪。”
“那我教你个好方法,用自来水从头上往下一浇就行了。”
“喂,你真是……”
“又开始了!让治先生的眼神让我更想捉弄你了呀。拜托别靠得我这么近,离我远一点,一根手指都不许碰。”
“……那朋友间的kiss呢?给我一个吻吧。”
“听话点我就给你,不过,之后你就不会疯了吗?”
“就算疯了也没关系,我已经管不了以后了!”
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読者諸君、諸君は既に前回までのいきさつのうちに、私とナミとが間もなく撚りを戻すようになることを、―――それが不思議でも何でもない、当然の成り行きであることを、予想されたでありましょう。そうして事実、結果は諸君の予想通りになったのですが、しかしそうなってしまうまでには思いの外に手数が懸って、私はいろいろ馬鹿な目を見たり、無駄な骨折りをしたりしました。
私とナミとは、あれから直きに馴れ馴れしく口を利くようにはなりました。と云うのは、あの明くる晩も、その次の晩も、あれからずっと、ナミは毎晩何かしら荷物を取りに来ないことはなかったからです。来れば必ず二階へ上って、包みを拵えて降りて来ますが、それもほんの申訳の、縮緬の帛紗へ包まるくらいな細々した物で、「今夜は何を取りに来たんだい?」
と尋ねて見ても、
「これ? これは何でもないの、ちょっとした物なの」
と、曖昧に答えて、「あたし、喉が渇いているんだけれど、お茶を一杯飲ましてくれない?」
などと云いながら、私の傍へ腰かけて、二三十分しゃべって行くと云う風でした。
「お前は何処かこの近所にいるのかね?」
と、私は或る晩、彼女とテーブルに向い合って、紅茶を飲みながらそう云ったことがありました。
「なぜそんな事を聞きたがるの?」
「聞いたって差支えないじゃないか」
「だけども、なぜよ。………聞いてどうする積りなのよ」
「どうすると云う積りはないさ、好奇心から聞いて見たのさ。―――え、何処にいるんだよ?己に云ったっていいじゃないか」
「いや、云わないわ」
「なぜ云わない?」
「あたしは何も、譲治さんの好奇心を満足させる義務はないわよ。それほど知りたけりゃあたしの跡をつけていらっしゃい、秘密探偵は譲治さんのお得意だから」
「まさかそれほどにしたくはないがね、―――しかしお前のいる所が何処か近所に違いないとは思っているんだ」
「へえ、どうして?」
「だって、毎晩やって来て荷物を運んで行くじゃないか」
「毎晩来るから近所にいると限りゃしないわ、電車もあれば自動車もあるわよ」
「じゃ、わざわざ遠くから出て来るのかい?」
「さあ、どうかしら、―――」
そう云って彼女はハグラカシてしまって、
「―――毎晩来ちゃあ悪いッて云うの?」
と、巧妙に話頭を転じました。
「悪いと云う訳じゃあないが、………来るなと云っても構わず押しかけて来るんだから、今更どうも仕方がないが、………」
「そりゃあそうよ、あたしは意地が悪いから、来るなと云えば尚来るわよ。―――それとも来られるのが恐ろしいの?」
「うん、そりゃ、………いくらか恐ろしくないこともない。………」
すると彼女は、仰向きになって真っ白な頤を見せ、紅い口を一杯に開けて、俄かにきゃッきゃッと笑いこけました。
「でも大丈夫よ、そんな悪い事はしやしないわよ。それよりかもあたし、昔のことは忘れてしまって、これから後もただのお友達として、譲治さんと附き合いたいの。ねえ、いいでしょ? それならちっとも差支えないでしょ?」
「それも何だか、妙なもんだよ」
「何が妙なの?昔夫婦でいた者が、友達になるのがなぜ可笑しいの? それこそ旧式な、時勢後れの考じゃなくって?―――ほんとうにあたし、以前のことなんかこれッぱかしも思っていないのよ。そりゃ今だって、若し譲治さんを誘惑する気なら、此処で直ぐにもそうしてしまうのは訳なしだけれど、あたし誓って、そんな事はきっとしないわ。折角譲治さんが決心したのに、それをグラツカせちゃ気の毒だから。………」
「じゃ、気の毒だと思って憐れんでやるから、友達になれと云う訳かね?」
「何もそう云う意味じゃないわ。譲治さんだって憐れまれたりしないように、シッカリしていればいいじゃないの」
「ところがそれが怪しいんだよ、今シッカリしている積りだが、お前と附き合うとだんだんグラツキ出すかも知れんよ」
「馬鹿ね、譲治さんは。―――それじゃ友達になるのはいや?」
「ああ、まあいやだね」
「いやならあたし、誘惑するわよ。―――譲治さんの決心を蹈み躪って、滅茶苦茶にしてやるわよ」
ナミはそう云って、冗談ともつかず、真面目ともつかず、変な眼つきでニヤニヤしました。
「友達として清く附き合うのと、誘惑されて又ヒドイ目に遭わされるのと、孰方がよくって?―――あたし今夜は譲治さんを脅迫するのよ」
一体この女は、どんな積りで己と友達になろうと云うのかと、私はその時考えました。彼女が毎晩訪ねて来るのは、単に私をからかうだけの興味ではなく、まだ何かしらもくろみがあるに違いありません。先ず友達になって置いて、それから次第に丸め込んで、自分の方から降参をする形式でなく再び夫婦になろうと云うのか?彼女の真意がそうであるなら、そんな面倒な策略を弄してくれないでも、私は訳なく同意したでしょう。なぜなら私の胸の中には、彼女と夫婦になれるのであったら決して「いや」とは云えない気持が、もういつの間にかムラムラと燃えていたのですから。
「ねえ、ナミや、ただの友達になったって無意味じゃないか。そのくらいならいっそ元通り夫婦になってくれないかね」
と、私は時と場合に依っては、自分の方からそう切り出してもいいのでした。けれども今夜のナミの様子では、私が真面目に心を打ち明けて頼んだところで、手軽に「うん」とは云いそうもない。
「そんなことは真っ平御免よ、ただの友達でなければいやよ」
と、此方の腹が見えたとなると、いよいよ図に乗って茶化すかも知れない。私の折角の心持がそんな扱いを受けるようではつまらないし、それに第一、ナミの真意が夫婦になると云うのではなく、自分は何処までも自由の立場にいて、いろいろの男を手玉に取ろう、そして私を手玉の一つに加えてやろうと、そう云う魂胆だとすれば、尚更迂闊なことは云えない。現に彼女はその住所をさえハッキリ云わないくらいだから、今でも誰か男があると思わなければならないし、それをそのままずるずるべったりに妻に持ったら、私は又しても憂き目を見るのだ。
そこで私は咄嗟の間に思案をめぐらして、
「では友達になってもいいよ、脅迫されちゃたまらないから」
と、此方もニヤニヤ笑いながらそう云いました。と云うのは、友達として附き合っていれば、追い追い彼女の真意が分って来るだろう。そして彼女にまだ少しでも真面目なところが残っていたら、その時始めて此方の胸を打ち明けて、夫婦になるようにと説きつける機会もあるだろうし、今より有利な条件で妻にすることが出来るでもあろうと、私は私で腹に一物あったからです。
「じゃあ承知してくれたのね?」
ナミはそう云って、擽ぐったそうに私の顔を覗き込んで、
「だけど譲治さん、ほんとうにただの友達よ」
「ああ、勿論さ」
「イヤらしいことなんか、もうお互に考えないのよ」
「分っているとも。―――それでなけりゃ己も困るよ」
「ふん」と云って、ナミは例の鼻の先で笑いました。
こんな事があってから後、彼女はますます足繁く出入するようになりました。夕方会社から帰って来ると、「譲治さん」と、いきなり彼女が燕のように飛び込んで来て、「今夜晩飯を御馳走しない?友達ならばそのくらいの事はしてもいいでしょ」
と、西洋料理を奢らせて、たらふく喰べて帰ったり、そうかと思うと雨の降る晩に遅くやって来て、寝室の戸をトントンと叩いて、「今晩は、もう寝ちまったの?―――寝ちまったらば起きないでもいいわ。あたし今夜は泊る積りでやって来たのよ」
と、勝手に隣りの部屋へ這入って、床を敷いて寝てしまったり、或る時などは朝起きて見ると、彼女がちゃんと泊り込んでいて、ぐうぐう眠っていたりすることもありました。そして彼女は二た言目には、「友達だから仕方がないわよ」と云うのでした。
私はその時分、彼女をつくづく天稟の淫婦であると感じたことがありましたが、それはどう云う点かと云うと、彼女はもともと多情な性質で、多くの男に肌を見せるのを屁とも思わない女でありながら、それだけ又、平素は非常にその肌を秘密にすることを知っていて、たとい僅かな部分をでも、決して無意味に男の眼には触れさせないようにしていたことです。誰にでも許す肌であるものを、不断は秘し隠しに隠そうとする、―――これは私に云わせると、確かに淫婦が本能的に自己を保護する心理なのです。なぜなら淫婦の肌と云うものは、彼女に取って何より大切な「売り物」であり、「商品」であるから、場合に依っては貞女が肌を守るよりも、一層厳重にそれを守らねばならない訳で、そうしなければ、「売り物」の値打ちはだんだん下落してしまいます。ナミは実にこの間の機微を心得ていて、嘗て彼女の夫であった私の前では、尚更その肌を押し包むようにするのでした。が、では絶対に慎しみ深くするのかと云うと、それが必ずしもそうではなく、私がいるとわざと着物を着換えたり、着換える拍子にずるりと襦袢を滑り落して、「あら」と云いながら、両手で裸体の肩を隠して隣りの部屋へ逃げ込んだり、一と風呂浴びて帰って来て、鏡台の前で肌を脱ぎかけ、そして始めて気が付いたように、「あら、譲治さん、そんな所にいちゃいけないわ、彼方へ行ってらっしゃいよ」と、私を追い立てたりするのでした。
こう云う風にして見せるともなく折々ちらと見せられるナミの肌の僅かな部分は、たとえば頸の周りとか、肘とか、脛とか、踵とか云う程の、ほんのちょっとした片鱗だけではありましたけれども、彼女の体が前よりも尚つややかに、憎いくらいに美しさを増していることは、私の眼には決して見逃せませんでした。私はしばしば想像の世界で、彼女の全身の衣を剥ぎ取り、その曲線を飽かずに眺め入ることを余儀なくされました。
「譲治さん、何をそんなに見ているの?」
と、彼女は或る時、私の方へ背中を向けて着換えながら云いました。
「お前の体つきを見ているんだよ、何だかこう、先より水々しくなったようだね」
「まあ、いやだ、―――レディーの体を見るもんじゃないわよ」
「見やしないけれど、着物の上からでも大概分るさ。先から出ッ臀だったけれど、この頃は又膨れて来たね」
「ええ、膨れたわ、だんだんお臀が大きくなるわ。だけども脚はすっきりして、大根のようじゃなくってよ」
「うん、脚は子供の時分から真っ直ぐだったね。立つとピタリと喰っ着いたけれど、今でもそうかね」
「ええ、喰っ着くわ」
そう云って彼女は、着物で体を囲いながらピンと立って見て、
「ほら、ちゃんと着くわよ」
その時私の頭の中には、何かの写真で覚えのあるロダンの彫刻が浮かびました。
「譲治さん、あなたあたしの体が見たいの?」
「見たければ見せてくれるのかい?」
「そんな訳には行かないわよ、あなたとあたしは友達じゃないの。―――さ、着換えてしまうまでちょいと彼方へ行ってらっしゃい」
そして彼女は、私の背中へ叩きつけるようにぴしゃんとドーアを締めました。
こんな調子で、ナミはいつも私の情慾を募らせるようにばかり仕向ける、そして際どい所までおびき寄せて置きながら、それから先へは厳重な関を設けて、一歩も這入らせないのです。私とナミとの間にはガラスの壁が立っていて、どんなに接近したように見えても、実は到底踰えることの出来ない隔たりがある。ウッカリ手出しをしようものなら必ずその壁に突き当って、いくら懊れても彼女の肌には触れる訳に行かないのです。時にはナミはヒョイとその壁を除けそうにするので、「おや、いいのかな」と思ったりしますが、近寄って行けば矢張元通り締まってしまいます。
「譲治さん、あなた好い児ね、一つ接吻して上げるわ」と、彼女はからかい半分によくそんなことを云ったものです。からかわれるとは知っていながら、彼女が唇を向けて来るので私もそれを吸うようにすると、アワヤと云う時その唇は逃げてしまって、はッと二三寸離れた所から私の口へ息を吹っかけ、「これが友達の接吻よ」と、そう云って彼女はニヤリと笑います。
この「友達の接吻」と云う風変りな挨拶の仕方、―――女の唇を吸う代りに、息を吸うだけで満足しなければならないところの不思議な接吻、―――これはその後習慣のようになってしまって、別れ際などに、「じゃ左様なら、又来るわよ」と、彼女が唇をさし向けると、私はその前へ顔を突き出して、あたかも吸入器に向ったようにポカンと口を開きます。その口の中へ彼女がはッと息を吹き込む、私がそれをすうッと深く、眼を潰って、おいしそうに胸の底に嚥み下します。彼女の息は湿り気を帯びて生温かく、人間の肺から出たとは思えない、甘い花のような薫りがします。―――彼女は私を迷わせるように、そっと唇へ香水を塗っていたのだそうですが、そう云う仕掛けがしてあることを無論その頃は知りませんでした。―――私はこう、彼女のような妖婦になると、内臓までも普通の女と違っているのじゃないか知らん、だから彼女の体内を通って、その口腔に含まれた空気は、こんななまめかしい匂がするのじゃないか知らん、と、よくそう思い思いしました。
私の頭はこうして次第に惑乱され、彼女の思う存分に掻きむしられて行きました。私は今では、正式な結婚でなければ厭だの、手玉に取られるだけでは困るのと、もうそんなことを云っている余裕はなくなりました。いや、正直を云うとこうなることは始めから分っていた筈なので、若しほんとうに彼女の誘惑を恐れるなら、附き合わなければいいものを、彼女の真意を探るためだとか、有利な機会を窺うためだとか云ったのは、自分で自分を欺こうとする口実に過ぎなかったのです。私は誘惑が恐い恐いと云いながら、本音を吐けばその誘惑を心待ちにしていたのです。ところが彼女はいつまで立ってもそのつまらない友達ごッこを繰り返すばかりで、決してそれ以上は誘惑しません。これは彼女がいやが上にも私を懊らす計略だろう、懊らして懊らし抜いて、「時分はよし」と見た頃に突然「友達」の仮面を脱ぎ、得意の魔の手を伸ばすであろう、今に彼女はきっと手を出す、出さないで済ます女ではない、此方はせいぜい彼女の計略に載せられてやって「ちんちん」と云えば「ちんちん」をする、「お預け」と云えば「お預け」をする、何でも彼女の注文通りに芸当をやっていれば、しまいには獲物に有りつけるだろうと、毎日々々、鼻をうごめかしていましたが、私の予想は容易に実現されそうもなく、今日はいよいよ仮面を脱ぐか、明日は魔の手が飛び出すかと思っても、その日になると危機一髪と云うところでスルリと逃げられてしまうのです。
そうなると私は、今度はほんとうに懊れ出しました。「己はこの通り待ちかねているんだ、誘惑するなら早くしてくれ」と云わぬばかりに、体中に隙を見せたり、弱点をさらけ出したりして、果ては此方からあべこべに誘いかけたりしました。しかし彼女は一向取り上げてくれないで、「何よ譲治さん! それじゃ約束が違うじゃないの」と、子供をたしなめるような眼つきで、私を叱りつけるのです。
「約束なんかどうだっていい、己はもう………」
「駄目、駄目! あたしたちはお友達よ!」
「ねえ、ナミ、………そんなことを云わないで、………お願いだから、………」
「まあ、うるさいわね! 駄目だったら!………さ、その代りキッスして上げるわ」
そして彼女は、例のはッと云う息を浴びせて、「ね、いいでしょ? これで我慢しなけりゃ駄目よ、これだけだって友達以上かも知れないけれど、譲治さんだから特別にして上げるんだわ」
が、この「特別」な愛撫の手段は、却って私の神経を異常に刺戟する力はあっても、決して静めてはくれません。
「畜生! 今日も駄目だったか」
と、私はますます苛立って来ます。彼女がふいと風のように出て行ってしまうと、暫くの間は何事も手に著かず、自分で自分に腹を立てて、檻に入れられた猛獣の如く部屋の中をウロウロしながら、そこらじゅうの物を八つ中りに叩きつけたり、破いたりします。
私は実に、この気違いじみた、男のヒステリーとも云うべき発作に悩まされたものですが、彼女の来るのが毎日であるので、発作の方も極まって一日に一遍ずつは起るのでした。おまけに私のヒステリーは普通のそれと性質が違い、発作が止んでしまっても、後でケロリと気が軽くなりはしませんでした。寧ろ気分が落ち着いて来ると、今度は前よりも一層明瞭に、一層執拗に、ナミの肉.体の細々した部分がじーッと思い出されました。着換えをした時にちょいと着物の裾から洩れた足であるとか、息を吹っかけてくれた時につい二三寸傍まで寄って来た唇であるとか、そう云うものがそれらを実際に見せられた時より、却って後になって一と入まざまざと眼の前に浮かび、その唇や足の線を伝わって次第に空想をひろげて行くと、不思議や実際には見えなかった部分までも、あたかも種板を現像するようにだんだん見え出して、遂には全く大理石のヴィナスの像にも似たものが、心の闇》の底に忽然と姿を現わすのです。私の頭は天鵞絨の帷で囲まれた舞台であって、そこに「ナミ」と云う一人の女優が登場します。八方から注がれる舞台の照明は真暗な中に揺らいでいる彼女の白い体だけを、カッキリと強い円光を以て包みます。私が一心に視詰めていると、彼女の肌に燃える光りはいよいよ明るさを増して来る、時には私の眉を灼きそうに迫って来る。活動写真の「大映し」のように、部分々々が非常に鮮やかに拡大される、………その幻影が実感を以て私の官能を脅やかす程度は、本物と少しも変りはなく、物足りないのは手で触れることが出来ないと云う一点だけで、その他の点では本物以上に生き生きとしている。あんまりそれを視詰めると、私はしまいにグラグラと眩暈がするような心地を覚えて、体中の血が一度にかあッと顔の方へ上って来て、ひとりでに動悸が激しくなります。すると再びヒステリーの発作が起って、椅子を蹴飛ばしたり、カーテンを引きちぎったり、花瓶を打っ壊したりします。
私の妄想は日増しに狂暴になって行き、眼を潰りさえすればいつでも暗い眼瞼の蔭にナミがいました。私はよく、彼女の芳わしい息の匂を想い出して、虚空に向って口を開け、はッとその辺の空気を吸いました。往来を歩いている時でも、部屋に蟄居している時でも、彼女の唇が恋しくなると、私はいきなり天を仰いで、はッはッとやりました。私の眼には到る所にナミの紅い唇が見え、そこらじゅうにある空気と云う空気が、みんなナミのいぶきであるかと思われました。つまりナミは天地の間に充満して、私を取り巻き、私を苦しめ、私の呻きを聞きながら、それを笑って眺めている悪霊のようなものでした。
「譲治さんはこの頃変よ、少うしどうかしているわよ」
と、ナミは或る晩やって来て、そう云いました。
「そりゃあどうかしているだろうさ、こんなにお前に懊らされりゃあ、………」
「ふん、………」
「何がふんだい?」
「あたし、約束は厳重に守る積りよ」
「いつまで守る積りなんだい?」
「永久に」
「冗談じゃない、こうしていると己はだんだん気が変になるよ」
「じゃ、いいことを教えて上げるわ、水道の水を頭からザッと打っかけるといいわ」
「おい、ほんとうにお前………」
「又始まった! 譲治さんがそんな眼つきをするから、あたし尚更からかってやりたくなるんだわ。そんなに傍へ寄って来ないで、もっと離れていらっしゃいよ、指一本でも触らないようにして頂戴よ」
「じゃあ仕方がない、友達のキッスでもしておくれよ」
「大人しくしていればして上げるわ、だけども後で気が変になりやしなくって?」
「なってもいいよ、もうそんな事を構ってなんかいられないんだ」