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27、二十七 “你疯了! ...
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那晚,娜奥米让我坐在桌子对面,饶有兴致地看着我神色惶惶。我们遵循着“一根手指也不许触碰”的规矩,秉烛夜谈,直到十二点钟声响。
“让治先生,今晚就让我住下吧。”她又用嘲弄的语气说道。
“啊,请住下吧,明天是星期天,我整天都在家。”
“可是就算我住下了,也不会按照让治先生的要求来的哟。”
“不,不必多虑了,你本来就不是贤妻良母。”
“这样才好,你不觉得吗?”她哼了一声,似在窃笑,“好了,你先休息吧,不要说梦话。”
她把我赶到二楼,自己走进隔壁房间,咔嚓一声上了锁。
我自然担心隔壁,怎么也睡不着。以前我们还是夫妻的时候,从来没发生过这种蠢事,我睡觉时她也在我身边,想到这里,我感到无比的懊恼。
隔着一堵墙,娜奥米频频——不知是否是故意这么做的——她把地板弄出咚咚咚响声,铺被子,拿枕头,准备睡觉。啊,她现在正解头发,脱下着物换上睡衣,啪地放下寝具呢,接着,我听见她扑通一声倒向被褥。这些情况犹在眼前、历历在目。
“声音好大啊。”我半是自言自语,半是让她听见。
“你还醒着?睡不着?”娜奥米在墙的另一边立刻回应道。
“怎么也睡不着啊——我想了很多事。”
“嘿嘿嘿,让治先生的心事,就算不问我也大致明白。”
“不过真是奇妙啊。你现在就睡在这堵墙的对面,我却什么事也做不了。”
“一点也不奇怪。很久以前不就是这样的吗?我刚来让治先生这里的时候——那时就像今晚一样睡觉,不是吗?”
听娜奥米这么一说,我顿时热泪盈眶:啊,原来是这样吗,原来也有那样的时代,那时候我们彼此都是纯洁的。但这丝毫也没有平息如今的爱欲,反而使我更加痛切地感受到两人之间有着多么深厚的缘分,我无论如何也离不开她。
“那时候你还很天真呢。”
“即使是现在我依旧是天真无邪的,虚伪做作的让治先生呀。”
“随便你说什么,我打算好了要挽回你,哪怕追到天涯海角。”
“呵呵。”
“喂!”我咚地一声锤在墙上。
“啊啦,你要干什么呢!这里可不是荒郊野岭的孤房,拜托请安静一点!”
“这堵墙太碍事了,真想把这堵墙砸了。”
“真是太吵了,今晚的老鼠太乱暴了。”
“当然乱暴,这只老鼠歇斯底里了。”
“我讨厌老鼠爷爷。”
“胡说!我不是老头!我才三十二岁!”
“我十九岁了,在十九岁的人看来三十二岁的就是老头。我这个人不会说什么坏话,你还是在外面娶个太太吧,说不定歇斯底里症就会好起来。”
最后不管我说什么,娜奥米都只是呵呵地笑。不久之后——
“我要睡觉了。”
她故意发出呼呼的鼾声,很快就真的睡着了。
第二天早上醒来一睁眼,娜奥米睡衣不整地坐在我枕边。
“怎么?让治先生,昨晚很辛苦吧?”
“嗯,最近我经常歇斯底里地发疯,害怕吗?”
“太有意思了,真想再看你那样。”
“已经没事了,今天早上已经完全康复了——啊,今天天气真好。”
“好天气就起来吧?已经十点多了。我一个小时前就起来了,泡了个晨浴了。”
听她这么说,我躺着抬头看着她洗完澡的样子。女人“出浴”的姿态——无比美丽。
和泡在浴池里的时候相比,再过十五分钟到二十分钟更为诱人。泡过澡之后的一段时间内,无论皮肤多么绮丽的女人都会变得粗糙,手指变得又红又胀;当身体冷却到适当的温度后,才如蜡凝固般变得透彻。
娜奥米洗完澡吹了风才回来,正处于出浴的最美瞬间。那脆弱而轻薄的肌肤虽然还含着水蒸气,却已经泛着雪白的光泽,在被衣襟遮住的胸前若隐若现,犹如水彩颜料涂就的紫色影子。冬日的晴空透过窗户映在水润光滑的脸上,微微映着蓝,如同蒙了一层明胶膜,只有眉毛湿漉漉的。
“怎么了?才早上就洗澡?”
“多管闲事——啊,真舒服。”她用巴掌在鼻子两侧啪嗒啪嗒地轻轻拍击,突然把脸伸到我面前,“谢谢!请仔细看看,我长胡子了吗?”
“啊,长了呢。”
“我应该顺便去理发店刮个脸再回来的。”
“可是,你不是讨厌刮脸吗?你说西洋女人是绝对不刮脸的……”
“最近亚米利加流行刮脸呀。你看我的眉毛,亚米利加的女人都这样剃眉毛。”
“哈哈,是吗?你的脸型最近变了,连眉形都不一样了,是因为你把眉毛剃成这个样子吗?”
“嗯,是啊,现在才意识到,真是落伍了。”娜奥米好像在想别的事情,突然问道,“让治先生,歇斯底里症真的治好了吗?”
“嗯,治好了。为什么这么问?”
“治好后我有件事想拜托让治先生——去理发店太麻烦了,你能帮我刮脸吗?”
“你说那种话是想让我再次歇斯底里吧?”
“哎呀,不是这么说的哟,我是认真地拜托你的,对我好一点也没关系吧?最重要的是,如果歇斯底里再次发作,受了伤就麻烦了。”
“我把安全剃须刀借给你,你自己刮不就行了?”
“不行不行,光刮脸还好,但从脖子周围到肩膀后面都要刮。”
“诶,为什么要刮那种地方?”
“难道不要刮?穿上晚礼服就露出来呀——”她还特意露出肩肉,“你看,连这里都要剃,我自己做不到的呀。”
说着,她又慌慌张张地缩回了肩膀。
虽然每次都是这把招数,但对我来说却是难以抵抗的诱惑。娜奥米那家伙根本不是想刮脸,她就是想玩弄我,泡澡多半也是花招——虽然我明白这一点,但让我帮她刮肤还是个前所未有的新挑战。
今天可以靠近她,仔细观察她的皮肤,甚至还能摸一摸。想到这里,我实在没有勇气拒绝她的请求。
在我用瓦斯焜炉给她烧水,用金盥给她洗脸,换吉列牌的刀片……在我做各种准备的时候,娜奥米把桌子搬到窗边,再在上面立了一面小镜子,屁股稳稳地跪坐两腿,然后把白色大浴巾围在衣襟周围。
但当我绕到她身后,把call gate的肥皂棒浸在水里,正要刮的时候——
“让治先生,帮我刮可以,但我有一个条件。”娜奥米说。
“条件?”
“嗯,是啊,也不是什么难事。”
“什么事?”
“我可不乐意让你借着刮脸的机会用手指到处乱摸,刮的时候,你一丝肌肤都不许碰。”
“可是你……”
“什么‘可是’啊,不碰就不能刮了吗?肥皂泡用刷子涂就行了,剃刀用吉列……我去理发店刮,厉害的师傅都不会碰到。”
“和理发店的师傅一起比,我可受不了。”
“说得天花乱坠,其实你都垂涎三尺了吧!不愿意刮的话,我就不勉强你了。”
“不是不愿意。你别这么说,让我刮了吧,好不容易都准备好了。”我凝视着娜奥米挽上发髻后那纤细而修长的白颈,只能这么说。
“那就按条件办吧。”
“嗯,办。”
“绝对不能碰。”
“嗯,不碰。”
“如果你哪怕碰了一点点,我立马就走人。请把你的左手放在膝盖上。”
我按她说的照做。然后只用右手,从她的嘴周围刮去。
她陶醉地享受着被剃刀抚摸的快感,瞳仁直视镜前,乖乖地让我给她剃。我的耳朵里传来悠长的呼吸声,我的眼睛里看到了下巴下面的颈动脉,我的睫毛尖几乎要刺到她的脸。
窗外空气干燥,晨光微熹,每一根毛孔都清晰可见。我从未在如此明亮的地方,如此长久地、如此细致地凝视过自己所爱女人的眼鼻。这样看来,她的美伟大如巨人,不容置喙地向我逼近。那令人胆寒的细长双眼,巍峨如建筑物的秀鼻,两条从鼻至口的突兀的线,线的下面是深深印入的红唇。
啊,这就是“娜奥密的脸”——一个灵妙的物质吗?这个物质就是我烦恼的根源吗……这么一想确实不可思议。
我不由自主地拿起刷子,在那个物质的表面打肥皂泡。但不管我怎么用刷子梳,它都只是静静地、毫无抵抗地、柔软地一缩一弹……
……我手上的剃刀如银虫,沿着平缓肌肤,从颈项一路爬到肩膀。她丰腴的背影像纯白的牛乳,层峦叠嶂地迫入我的视野。
她倒是常常孤芳自赏,但知道自己的后背竟有这么美吗?恐怕她自己也不知道吧。最清楚这一点的人是我,我曾经每天把这脊背泡在热水里洁净。那时也和现在一般无二地打着肥皂泡……
这是我恋爱的痕迹。我的手,我的指,曾经在这凄艳的雪上嬉戏玩耍,在此处自由地、快乐地舞蹈。或许现在不知哪里还留着痕迹……
“让治先生,你的手在发抖哟,拜托,稍微请稳一点吧。”突然传来娜奥米的声音。
我的脑袋咣咣发胀,口中干渴,身体颤抖得连自己都能发觉——我恍然大悟,我疯了!
我决命忍耐,只觉得脸上忽冷忽热。
但是,娜奥米的恶作剧并没有就此停止。肩膀刮好之后,她挽起衣袖,高高抬起胳膊肘。
“好了,这次是腋下。”她这么说。
“啊?腋下?”
“嗯,是啊——穿洋服要刮腋窝,被人看到这里不觉得失礼吗?”
“坏心眼!”
“怎么坏心眼了?你这人真可笑——水快凉了,快点。”
那一瞬间我突然扔掉剃刀,撞向她的胳膊肘——与其说撞,不如说咬。
娜奥米似乎早就料到这一点,立刻用手肘把我狠狠地顶了回去,不过我的手指似乎还是摸到了什么,但接着被肥皂泡滑开了。她又一次用力把我推到墙上。
“你干什么!”她大叫着站了起来。
仔细一看,那张脸——大概是因为我的脸色苍白缘故吧,她也——没有一丝玩笑的痕迹,脸色铁青。
“娜奥米!娜奥米!不要再逗我了!我答应你!不管你说什么我都听!”
我完全不知道自己说了些什么,心急如焚,强聒不舍,犹如发了热病。娜奥米一言不发,立如大棒,一副惊讶的样子睨着我。
我扑倒在她脚下,跪下大吼:“你为什么不说话!说点什么啊!要么杀了我!”
“你疯了!”
“疯了不好吗!”
“谁会理睬你这种疯子?”
“无论如何也不愿意要我的话,就把我当马吧!像以前那样骑在我的背上,这样就够了!”我说着,五体投地爬下。
那一瞬间娜奥米真以为我发狂了。她的脸色变得更加铁青,近乎恐怖地凝视着我的眼睛。忽然,她猛地跳了起来,义无反顾地、胆大妄为地、“咚”地就跨到我的背上。
“好,这样行了吗?”她的口吻真汉子。
“嗯,这样就好。”
“以后什么都听我的?”
“嗯,听。”
“只要我要,无论多少钱你都给?”
“给。”
“随我做自己喜欢的事,还是一一干涉?”
“不干涉。”
“不要叫我‘娜奥米’,叫我‘娜奥米女士’?”
“娜奥米女士。”
“一定?”
“一定。”
“好,那我就不把你当马了,当成人来对待吧,你太让人爱怜了……”
最后我和娜奥米全身上下都涂满了肥皂泡沫。
“……终于结为夫妻了,这次我可不会再让你逃了。”我说。
“我走了真有那么麻烦吗?”
“啊,很伤脑筋的,有一段时间我还以为你不回来了呢。”
“怎么?你明白我的可怕之处了吗?”
“明白了,太明白了。”
“那么,我不会忘记你刚才说过的话,你要给我自由——虽说是夫妻,但我讨厌不知变通的夫妇,否则我又会离开。”
“我知道,以后我们只是‘让治先生’和‘娜奥米女士’。”
“我会常去跳舞?”
“嗯。”
“和形形色色的朋友相交?你不会像先前那样抱怨了吗?”
“嗯。”
“当然,我已经和阿麻绝交了哟——”
“诶,你和熊谷绝交了?”
“嗯,我才不要那种讨厌的家伙——我今后会跟西洋人交往,他们比日本人有意思。”
“是横滨那个叫麦卡内尔的男人吗?”
“我有很多西洋人朋友呀,麦卡内尔也不算什么,没什么可疑的。”
“哼,谁知道……”
“你这么怀疑别人是不行的,既然我这么说你就一定要相信。好了?好了!信还是不信?”
“我相信你!”
“除此之外还有别的要求哟——让治先生辞职后打算做什么?”
“我之前想,要是被你抛弃了就搬到乡下去,不过事已至此,我不会再搬了。我会把乡下的财产整理好,换成现金带回来。”
“换成现金有多少?”
“不知道,不过大概能带回二三十万日元吧!”
“这么点?”
“这些还不够你我两人的开销吗?”
“能畅游世界吗?”
“这个……你可以玩,但我要开个事务所,自己独立工作。”
“我可不想把钱都花在投资上,让我奢侈度日的钱要另外放。好吗?”
“啊,好。”
“那把钱对半分吧——如果是三十万日元就留下十五万日元,如果是二十万日元就留下十万日元……”
“你还真仔细啊。”
“那当然了,一开始就把条件定好——怎么样?答应吗?不想娶我做太太吗?”
“没有不想……”
“不想要说不想哟!现在说还来得及。”
“没问题……我答应……”
“等等——那样的话就不能再住在这里了,要搬到更气派、更时髦的房子去!”
“当然。”
“我要住在西洋人的住宅区,最好是西洋馆,有干净整洁的卧室和餐厅,再聘请kok(荷兰语,厨师)和boy(佣人)。”
“东京有这样的房子吗?”
“东京没有,横滨有。横滨的山手正好有一间空着的租屋,上次我好好地看过了。”
我才知道她的企图埋得很深。娜奥米从最初就制订好了计划。她打算钓我。
·
その晩ナミは、「指一本でも触らないように」私をテーブルの向う側にかけさせ、ヤキモキしている私の顔を面白そうに眺めながら、夜遅くまで無駄口を叩いていましたが、十二時が鳴ると、
「譲治さん、今夜は泊めて貰うわよ」
と、又しても人をからかうような口調で云いました。
「ああ、お泊り、明日は日曜で己も一日内にいるから」
「だけども何よ。泊ったからって、譲治さんの注文通りにはならないわよ」
「いや、御念には及ばないよ、注文通りになるような女でもないからな」
「なれば都合が好いと思っているんじゃないの」
そう云って彼女は、クスクスと鼻を鳴らして、
「さ、あなたから先へお休みなさい、寝語を云わないようにして」
と、私を二階へ追い立てて置いて、それから隣りの部屋へ這入って、ガチンと鍵をかけました。
私は勿論、隣りの部屋が気にかかって容易に寝つかれませんでした。以前、夫婦でいた時分にはこんな馬鹿なことはなかったんだ、己がこうして寝ている傍に彼女もいたんだ、そう思うと、私は無上に口惜しくてなりませんでした。壁一重の向うでは、ナミが頻りに、―――或はわざとそうするのか、―――ドタンバタンと、床に地響きをさせながら、布団を敷いたり、枕を出したり、寝支度をしています。あ、今髪を解かしているな、着物を脱いで寝間着に着換えているところだなと、それらの様子が手に取るように分ります。それからぱッと夜具をまくったけはいがして、続いてどしんと、彼女の体が布団の上へ打っ倒れる音が聞えました。
「えらい音をさせるなあ」
と、私は半ば独り言のように、半ば彼女に聞えるように云いました。
「まだ起きているの?寝られないの?」
と、壁の向うから直ぐとナミが応じました。
「ああ、なかなか寝られそうもないよ、―――己はいろいろ考え事をしているんだ」
「うふふふ、譲治さんの考え事なら、聞かないでも大概分っているわ」
「だけども、実に妙なもんだよ。現在お前がこの壁の向うに寝ているのに、どうすることも出来ないなんて」
「ちっとも妙なことはないわよ。ずっと昔はそうだったじゃないの、あたしが始めて譲治さんの所へ来た時分は。―――あの時分には今夜のようにして寝たじゃないの」
私はナミにそう云われると、ああそうだったか、そんな時代もあったんだっけ、あの時分にはお互に純なものだったのにと、ホロリとするような気になりましたが、これは少しも今の私の愛慾を静めてはくれませんでした。却って私は、二人がいかに深い因縁で結び着けられているかを思い、到底彼女と離れられない心持を、痛切に感じるばかりでした。
「あの時分にはお前は無邪気なもんだったがね」
「今だってあたしは至極無邪気よ、有邪気なのは譲治さんだわ」
「何とでも勝手に云うがいいさ、己はお前を何処までも追っ駈け廻す積りだから」
「うふふふ」
「おい!」
私はそう云って、壁をどんと打ちました。
「あら、何をするのよ、此処は野中の一軒家じゃあないことよ。何卒お静かに願います」
「この壁が邪魔だ、この壁を打っ壊してやりたいもんだ」
「まあ騒々しい。今夜はひどく鼠が暴れる」
「そりゃ暴れるとも。この鼠はヒステリーになっているんだ」
「あたしはそんなお爺さんの鼠は嫌いよ」
「馬鹿を云え、己はじじいじゃないぞ、まだやっと三十二だぞ」
「あたしは十九よ、十九から見れば三十二の人はお爺さんよ。悪いことは云わないから、外に奥さんをお貰いなさいよ、そうしたらヒステリーが直るかも知れないから」
ナミは私が何を云っても、しまいにはもう、うふうふ笑うだけでした。そして間もなく、
「もう寝るわよ」
と、ぐうぐう空鼾をかき出しましたが、やがてほんとうに寝入ったようでした。
明くる日の朝、眼を覚まして見ると、ナミはしどけない寝間着姿で、私の枕もとに坐っています。
「どうした?譲治さん、昨夜は大変だったわね」
「うん、この頃己は、時々あんな風にヒステリーを起すんだよ。恐かったかい?」
「面白かったわ、又あんな風にさして見たいわ」
「もう大丈夫だ、今朝はすっかり治まっちまった。―――ああ、今日は好い天気だなあ」
「好い天気だから起きたらどう? もう十時過ぎよ。あたし一時間も前に起きて、今朝湯に行って来たの」
私はそう云われて、寝ながら彼女の湯上り姿を見上げました。一体女の「湯上り姿」と云うものは、―――それの真の美しさは、風呂から上ったばかりの時よりも、十五分なり二十分なり、多少時間を置いてからがいい。風呂に漬かるとどんなに皮膚の綺麗な女でも、一時は肌が茹り過ぎて、指の先などが赤くふやけるものですが、やがて体が適当な温度に冷やされると、始めて蝋が固まったように透き徹って来る。ナミは今しも、風呂の帰りに戸外の風に吹かれて来たので、湯上り姿の最も美しい瞬間にいました。その脆弱な、うすい皮膚は、まだ水蒸気を含みながらも真っ白に冴え、着物の襟に隠れている胸のあたりには、水彩画の絵の具のような紫色の影があります。顔はつやつやと、ゼラチンの膜を張ったかの如く光沢を帯び、ただ眉毛だけがじっとりと濡れていて、その上にはカラリと晴れた冬の空が、窓を透してほんのり青く映っています。
「どうしたんだい、朝ッぱらから湯になんぞ這入って」
「どうしたって大きなお世話よ。―――ああ、いい気持だった」
と、彼女は鼻の両側を平手でハタハタと軽く叩いて、それからぬうッと、顔を私の眼の前へ突き出しました。
「ちょいと! よく見て頂戴、髭が生えてる?」
「ああ、生えてるよ」
「ついでにあたし、床屋へ寄って顔を剃って来ればよかったっけ」
「だってお前は剃るのが嫌いだったじゃないか。西洋の女は決して顔を剃らないと云って。―――」
「だけどこの頃は、亜米利加なんかじゃ顔を剃るのが流行っているのよ。ね、あたしの眉毛を御覧なさい、亜米利加の女はこんな工合にみんな眉毛を剃っているから」
「ははあ、そうか、お前の顔がこの間から面変りがして、眉の形まで違っちまったのは、そこをそんな風に剃っているせいか」
「ええ、そうよ、今頃になって気が付くなんて、時勢後れね」
ナミはそう云って、何か別な事を考えている様子でしたが、
「譲治さん、もうヒステリーはほんとうに直って?」
と、ふいとそんなことを尋ねました。
「うん、直ったよ。なぜ?」
「直ったら譲治さんにお願いがあるの。―――これから床屋へ出かけて行くのは大儀だから、あたしの顔を剃ってくれない?」
「そんな事を云って、又ヒステリーを起させようッて気なんだろう」
「あら、そうじゃないわよ、ほんとに真面目で頼むんだから、そのくらいな親切があってもいいでしょ?尤もヒステリーを起されて、怪我でもさせられちゃ大変だけれど」
「安全剃刀を貸してやるから、自分で剃ったらいいじゃないか」
「ところがそうは行かないの。顔だけならいいけれど、頸の周りから、ずうッと肩のうしろの方まで剃るんだから」
「へえ、どうしてそんな所まで剃るんだ?」
「だってそうでしょ、夜会服を着れば肩の方まですっかり出るでしょ。―――」
そしてわざわざ、肩の肉をちょっとばかり出して見せて、
「ほら、ここいらまで剃るのよ、だから自分じゃ出来やしないわ」
そう云ってから、彼女は慌てて又その肩をスポリと引っ込めてしまいましたが、毎度してやられる手ではありながら、それが私には矢張抵抗し難いところの誘惑でした。ナミの奴、顔が剃りたいのでも何でもないんだ、己を飜弄するつもりで湯にまで這入って来やがったんだ。―――と、そう分ってはいましたけれども、とにかく肌を剃らせると云うのは、今までにない一つの新しい挑戦でした。今日こそうんと近くへ寄って、あの皮膚をしみじみと見られる、もちろん触ってみることも出来る。そう考えただけでも私は、とても彼女の申出でを断る勇気はありませんでした。
ナミは私が、彼女のために瓦斯焜炉で湯を沸かしたり、それを金盥へ取ってやったり、ジレットの刃を附け換えたり、いろいろ支度をしてやっている間に、窓のところへ机を持ち出してその上に小さな鏡を立て、両足の間へ臀をぴたんこに落して据わって、次には白い大きなタルを襟の周りへ巻き着けました。が、私が彼女のうしろへ廻って、コールゲートのシャボンの棒を水に塗らして、いよいよ剃ろうとするとたんに、
「譲治さん、剃ってくれるのはいいけれど、一つの条件があることよ」
と、云い出しました。
「条件?」
「ええ、そう。別にむずかしい事じゃないの」
「どんな事さ?」
「剃るなんて云ってゴマカして、指で方々摘まんだりしちゃ厭だわよ、ちっとも肌に触らないようにして、剃ってくれなけりゃ」
「だってお前、―――」
「何が『だって』よ、触らないように剃れるじゃないの、シャボンはブラシで塗ればいいんだし、剃刀はジレットを使うんだし、………床屋へ行っても上手な職人は触りゃしないわ」
「床屋の職人と一緒にされちゃあ遣り切れないな」
「生意気云ってらあ、実は剃らして貰いたい癖に!―――それがイヤなら、何も無理には頼まないわよ」
「イヤじゃあないよ。そう云わないで剃らしておくれよ、折角支度までしちゃったんだから」
私はナミの、抜き衣紋にした長い襟足を視詰めると、そう云うより外はありませんでした。
「じゃ、条件通りにする?」
「うん、する」
「絶対に触っちゃいけないわよ」
「うん、触らない」
「もしちょっとでも触ったら、その時直ぐに止めにするわよ。その左の手をちゃんと膝の上に載せていらっしゃい」
私は云われる通りにしました。そして右の方の手だけを使って、彼女の口の周りから剃って行きました。
彼女はうっとりと、剃刀の刃で撫でられて行く快感を味わっているかのように、瞳を鏡の前に据えて、大人しく私に剃らせていました。私の耳には、すうすうと引く睡いような呼吸が聞え、私の眼には、その頤の下でピクピクしている頸動脈が見えています。私は今や、睫毛の先で刺されるくらい彼女の顔に接近しました。窓の外には乾燥し切った空気の中に、朝の光が朗かに照り、一つ一つの毛孔が数えられるほど明るい。私はこんな明るい所で、こんなにいつまでも、そしてこんなにも精細に、自分の愛する女の目鼻を凝視したことはありません。こうして見るとその美しさは巨人のような偉大さを持ち、容積を持って迫って来ます。その恐ろしく長く切れた眼、立派な建築物のように秀でた鼻、鼻から口へつながっている突兀とした二本の線、その線の下に、たっぷり深く刻まれた紅い唇。ああ、これが「ナミの顔」と云う一つの霊妙な物質なのか、この物質が己の煩悩の種となるのか。………そう考えると実に不思議になって来ます。私は思わずブラシを取って、その物質の表面へ、ヤケにシャボンの泡を立てます。が、いくらブラシで掻き廻しても、それは静かに、無抵抗に、ただ柔かな弾力を以て動くのみです。………
………私の手にある剃刀は、銀色の虫が這うようにしてなだらかな肌を這い下り、その項から肩の方へ移って行きました。かっぷくのいい彼女の背中が、真っ白な牛乳のように、広く、堆く、私の視野に這入って来ました。一体彼女は、自分の顔は見ているだろうが、背中がこんなに美しいことを知っているだろうか?彼女自身は恐らくは知るまい。それを一番よく知っているのは私だ、私は嘗てこの背中を、毎日湯に入れて流してやったのだ。あの時もちょうど今のようにシャボンの泡を掻き立てながら。………これは私の恋の古蹟だ。私の手が、私の指が、この凄艶な雪の上に嬉々として戯れ、此処を自由に、楽しく蹈んだことがあるのだ。今でも何処かに痕が残っているかも知れない。………
「譲治さん、手が顫えるわよ、もっとシッカリやって頂戴。………」
突然ナミの云う声がしました。私は頭がガンガンして、口の中が干涸らびて、奇態に体が顫えるのが自分でも分りました。はッと思って、「気が違ったな」と感じました。それを一生懸命に堪えると、急に顔が熱くなったり、冷めたくなったりしました。しかしナミのいたずらは、まだこれだけでは止まないのでした。肩がすっかり剃れてしまうと、袂をまくって、肘を高くさし上げて、
「さ、今度は腋の下」
と云うのでした。
「え、腋の下?」
「ええ、そう、―――洋服を着るには腋の下を剃るもんよ、此処が見えたら失礼じゃないの」
「意地悪!」
「どうして意地悪よ、可笑しな人ね。―――あたし湯冷めがして来たから早くして頂戴」
その一刹那、私はいきなり剃刀を捨てて、彼女の肘へ飛び着きました、―――飛び着くと云うよりは噛み着きました。と、ナミはちゃんとそれを予期していたかの如く、直ぐその肘で私をグンと撥ね返しましたが、私の指はそれでも何処かに触ったと見え、シャボンでツルリと滑りました。彼女はもう一度、力一杯私を壁の方へ突き除けるや否や、
「何をするのよ!」
と、鋭く叫んで立ち上りました。見るとその顔は、―――私の顔が真っ青だったからでしょうが、彼女の顔も―――冗談ではなく、真っ青でした。
「ナミ! ナミ! もうからかうのは好い加減にしてくれ! よ! 何でもお前の云うことは聴く!」
何を云ったか全く前後不覚でした、ただセッカチに、早口に、さながら熱に浮かされた如くしゃべりました。それをナミは、黙って、まじまじと、棒のように突っ立ったまま、呆れ返ったと云う風に睨みつけているだけでした。
私は彼女の足下に身を投げ、跪いて云いました。
「よ、なぜ黙っている! 何とか云ってくれ! 否なら己を殺してくれ!」
「気違い!」
「気違いで悪いか」
「誰がそんな気違いを、相手になんかしてやるもんか」
「じゃあ己を馬にしてくれ、いつかのように己の背中へ乗っかってくれ、どうしても否ならそれだけでもいい!」
私はそう云って、そこへ四つン這いになりました。
一瞬間、ナミは私が事実発狂したかと思ったようでした。彼女の顔はその時一層、どす黒いまでに真っ青になり、瞳を据えて私を見ている眼の中には、殆ど恐怖に近いものがありました。が、忽ち彼女は猛然として、図太い、大胆な表情を湛え、どしんと私の背中の上へ跨がりながら、
「さ、これでいいか」
と、男のような口調で云いました。
「うん、それでいい」
「これから何でも云うことを聴くか」
「うん、聴く」
「あたしが要るだけ、いくらでもお金を出すか」
「出す」
「あたしに好きな事をさせるか、一々干渉なんかしないか」
「しない」
「あたしのことを『ナミ』なんて呼びつけにしないで、『ナミさん』と呼ぶか」
「呼ぶ」
「きっとか」
「きっと」
「よし、じゃあ馬でなく、人間扱いにして上げる、可哀そうだから。―――」
そして私とナミとは、シャボンだらけになりました。………
「………これで漸く夫婦になれた、もう今度こそ逃がさないよ」
と、私は云いました。
「あたしに逃げられてそんなに困った?」
「ああ、困ったよ、一時はとても帰って来てはくれないかと思ったよ」
「どう? あたしの恐ろしいことが分った?」
「分った、分り過ぎるほど分ったよ」
「じゃ、さっき云ったことは忘れないわね、何でも好きにさせてくれるわね。―――夫婦と云っても、堅ッ苦しい夫婦はイヤよ、でないとあたし、又逃げ出すわよ」
「これから又、『ナミさん』に『譲治さん』で行くんだね」
「ときどきダンスに行かしてくれる?」
「うん」
「いろいろなお友達と附き合ってもいい? もう先のように文句を云わない?」
「うん」
「尤もあたし、まアちゃんとは絶交したのよ。―――」
「へえ、熊谷と絶交した?」
「ええ、した、あんなイヤな奴はありゃしないわ。―――これから成るべく西洋人と附き合うの、日本人より面白いわ」
「その横浜の、マッカネルと云う男かね?」
「西洋人のお友達なら大勢あるわ。マッカネルだって、別に怪しい訳じゃないのよ」
「ふん、どうだか、―――」
「それ、そう人を疑ぐるからいけないのよ、あたしがこうと云ったらば、ちゃんとそれをお信じなさい。よくって? さあ! 信じるか、信じないか?」
「信じる!」
「まだその外にも注文があるわよ、―――譲治さんは会社を罷めてどうする積り?」
「お前に捨てられちまったら、田舎へ引っ込もうと思ったんだが、もうこうなれば引っ込まないよ。田舎の財産を整理して、現金にして持ってくるよ」
「現金にしたらどのくらいある?」
「さあ、此方へ持って来られるのは、二三十万はあるだろう」
「それッぽっち?」
「それだけあれば、お前と己と二人ッきりなら沢山じゃないか」
「贅沢をして遊んで行かれる?」
「そりゃ、遊んじゃあ行かれないよ。―――お前は遊んでもいいけれど、己は何か事務所でも開いて、独立して仕事をやる積りだ」
「仕事の方へみんなお金を注ぎ込んじまっちゃイヤだわよ、あたしに贅沢をさせるお金を、別にして置いてくれなけりゃ。いい?」
「ああ、いい」
「じゃ、半分別にして置いてくれる?―――三十万円なら十五万円、二十万円なら十万円、―――」
「大分細かく念を押すんだね」
「そりゃあそうよ、初めに条件を極めて置くのよ。―――どう?承知した? そんなにまでしてあたしを奥さんに持つのはイヤ?」
「イヤじゃないッたら、―――」
「イヤならイヤと仰っしゃいよ、今のうちならどうでもなるわよ」
「大丈夫だってば、―――承知したってば、―――」
「それからまだよ、―――もうそうなったらこんな家にはいられないから、もっと立派な、ハイカラな家へ引っ越して頂戴」
「無論そうする」
「あたし、西洋人のいる街で、西洋館に住まいたいの、綺麗な寝室や食堂のある家へ這入ってコックだのボーイを使って、―――」
「そんな家が東京にあるかね?」
「東京にはないけれど、横浜にはあるわよ。横浜の山手にそう云う借家がちょうど一軒空いているのよ、この間ちゃんと見て置いたの」
私は始めて彼女に深いたくらみがあったのを知りました。ナミは最初からそうする積りで、計画を立てて、私を釣っていたのでした。