《はてなき旅》君兰

14、第８章 氷

　　「なんかさぁ、おかしいよね・・・。」
　　クランは思わず身震いした。
　　「おかしいというか・・・・。寒い・・・すんっごく寒い・・・。」
　　とルルアはくしゃみをした。
　　「何で森の中が寒いわけ？おかしいよねやっぱさ・・・。」
　　クランは手と手をこすり合わせた。
　　「ふぅーはぁー・・・。ん？アレ見て！アレ！！」
　　ルルアは３人が進んでいる方向の奥のほうを指差した。
　　「何でしょうね・・・。」
　　とアウラの反応が小さいのに対してクランは、
　　「ホントだ！何かあるぜ！」
　　と目をこらしてよく見ようと大げさなリアクションを取った。
　　「しかも・・・、なんか周りの木が凍ってる・・・・・？」
　　ルルアはその場所に近ずくにつれて、寒気が増してきているのに気づいた。
　　「あれは・・・ほこら・・・というものではないでしょうか・・・？」
　　アウラは自分の息が白くなって吐き出されるのを見て相当な寒さなんだと思った。
　　「この寒さはちょっとやばいぜ・・・。」
　　「ねぇちょっと温まってからいきましょうよ・・・。クラン。こんな時こそあんたの出番よ！」
　　とクランにガッツポーズした。
　　「へいへい・・・。まったく人の能力を何だと思ってんだよ・・・。」
　　クランは背中のカリファーソウルをかじかんだ手に持ち、小さくラルクと唱えた。するといきなりカリファーソウルが炎に包まれた。
　　「おお！すごいじゃない！クランやる～♪」
　　とルルアはクランのもつ剣に手を近づけた。たちまち３人の周りは暖かくなった。
　　「暖か～い・・・。」
　　とルルアはふぁ～と暖かくなった息を手に吹きかけた。
　　「んじゃそろそろ行こう。」
　　クランは炎を消し、すぐさま大剣を背中に戻した。
　　「ああ～ん・・・。もう・・・。寒っ！」
　　いきなりの温度変化に３人の体は敏感に反応した。
　　「早く行こう！きっとあそこに何かあるんだ！」
　　と３人は軽く走りながら進んだ。

　　「な・な・何これ・・・。」
　　３人が行き着いた場所は氷で出来た。３メートルぐらいの高さのほこらだった。
　　「なんで氷でできてんの・・・？」
　　クランは寒いのも忘れてその美しさに見とれた。
　　「知らないわよ・・・。私、砂漠の中から出たことないもの・・・。」
　　「やっと来たか・・・。」
　　とほこらの後ろから誰か出てきた。
　　「誰だ！！」
　　クランはすぐさま大剣を手にもった。
　　「安心しろ、何も危害は加えない・・・。剣をおろしてくれないか・・・。」
　　とそいつは静かに言った。クランは大剣は手に持ったままおろした。
　　「あんた誰・・・。」
　　ルルアはアウラの後ろから顔だけを出して声をかけた。
　　「俺はお前達をずっと待っていた。」
　　そう言って、そいつは近づいてきた。さっきまでは凍りついた木の陰で見えなかったが髪の毛は雪のように真っ白で、左目の下に赤く十字架の模様が入っていた。その十字架の赤い線が頬いっぱいに延びていた。
　　「な、なんで俺達をお前は待つ必要があるんだよ・・・。」
　　「そんなことは後でいい。」
　　と言ってそいつはほこらの氷の扉を開けた。すると冷たい風が中から出てきて声が聞こえてきた。

　　『よくきましたね・・・。選ばれし者達・・・。私が貴方達を選んだのです。』

　　と女の人の優しい声が聞こえた。
　　「私が、って神様ですか？」
　　クランは冷たい風が吹き続けているほこらの中を見た。

　　『いいえ・・・。私はただの神様のお友達のような関係です。』

　　と女の声がまじめな空気の中、期待していた答えと違った変な答えが返ってきたのでがっかりした。

　　『それより・・・もう私が話せる時間はありません・・・。そこにいるティラと一緒に天空の入り口を一刻も早く見つけ出すのです。私に出来ることは貴方たちの無事を祈ることだけ・・・。がんばるのです・・・。選ばれし勇士達よ・・・。』

　　女の声が途切れた途端に、ほこらの扉はしまってしまった。
　　「ちょっと待って！」
　　とルルアが叫んでも遅かった。
　　「という事だ。もうここには用はない。行くぞ。」
　　とティラと呼ばれていた人は先に進もうとした。
　　「ちょっと待ちなさいよ！何なのよ！あんた仲間なんでしょ！なら自己紹介ぐらいしたら！」
　　ルルアは額に怒りマークをつけて怒鳴った。
　　「俺はティラ・シュタインだ。さっきも言った通り、選ばれし者だ。」
　　とめんどくさそうにティラは振り返った。
　　「え？選ばれし者って四代星に・・・？」
　　クランは安全なんだと思ったのか、大剣を背中に戻した。
　　「ああ。それがどうした。」
　　「じゃルックは何なの？」
　　ルルアはついさっき離れてしまったルックの名前を出した。
　　「ルック・・・？そんなヤツ俺は知らん・・・。」
　　ティラはウザったそうに答えた。
　　「ルックは何なんだ・・・。」
　　クランはだんだんルックのことが心配になってきた。生きているかも分からない状態で選ばれし者じゃないかも知れないというのだ。
　　「それは後にして、早いとこ森をでませんか？森を出たらすぐ町がありますので・・・。そうしないと風邪を引いてしまいます。」
　　とアウラがティラに出会ってから初めて口を開いた。
　　「そうね・・・。」
　　ルルアはアウラを見てからさっき来たところとは反対側に歩き出した。ティラは何も言わずルルアの後について行った。クランは納得いかなかったが、しぶしぶついて行った。

　　アウラはほこらを振り返って、ほこらを懐かしそうに見つた。
　　「久ぶりね・・・。ナルセナ・・・・もう少しで会えるわね・・・。」
　　と言い、寂しそうに微笑んで皆の後をついて行った。