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紫陽花祭りの初日の夜、宗聖は紫陽花の鉢を買うつもりで出かけた。お気に入りのゲイバーのママに持っていくつもりだった。ところが提灯に照らされた路地の数メートル先に見覚えのある後姿を見つけた。
髪型が違うし、浴衣姿なのに後姿ですぐに葵だとわかった。和服に慣れたキレイな立ち姿だった。洋服の時にはなかった滑らかさと柔らかさが出ている。余程着慣れているのだろう。だから洋服がしっくり来ないのだろうか?
いや洋服だって、ちゃんと選べば彼女を引き立ててくれるだろうに。和服のセンスはよいが洋服のセンスはイマイチなのかも知れない。そんなことを思いながら少し離れて後ろを歩いていた。
葵は、悪くすると崩れて見えがちな縦じま模様の浴衣をきちんと着こなし、紺色の帯をしめ若さを引き立てている。年配の女性や水商売なら、帯は明るい色を選ぶだろう。
そして同じく水商売の女性ならゆったりとまとめるヘアスタイルも、長い髪を小さくキリッとまとめ、若々しい。襟足に見える薄紫の襟がポイントになっているようだ。
声をかけるべきかかどうかためらわれている間に、葵に近づくものがいた。若い男だ。ビジネスマンではないいでたち、おそらく遊びに繰り出した学生、悪くすると高校生かも知れない。葵は嫌がりながらも無視している。
相変わらず毅然とした態度が取れていない。そんなふうではあっという間に暗闇に連れ込まれるぞ。と舌打ちした瞬間に想像通りのことが起きた。葵はその若造に手をとられずんずんと人ごみから離れようとしている。
宗聖はため息をついた。全くなんで俺がこんなこと2度もしてやらなければいけないんだ。それでも既に足は2人を追いかけている。
露店の裏を引っ張られて歩いていく葵を後ろから掴み声をかけた。
「葵、どこへ行く気だ?」
宗聖の言葉に葵が驚いて振り返った。その手を取っていた男も振り返った。高校生よりは年がいってるようだが、せいぜいが大学生どまり。青臭い生意気そうな子供だ。
「君、この子をどうする気だ。」
「どうって別に・・・」
宗聖の雰囲気におされ気味の若者は葵の手を離すと、数歩後ずさった。途端にクルッと向きをかえ、人ごみに消えた。
宗聖は葵をまたしてもため息と共に見つめた。
葵は恥ずかしいところを見られ、またしても萎縮してしまった。
「どうしてもっとちゃんと拒否しないんだ。」
宗聖の言葉は傍目には父親の台詞だ。
「ごめんなさい・・・」
「いいか。たくさん人がいるところで、大きな声を出せば、どんな都会だろうが、みんな注意を傾けてくれる。きちんと嫌なら嫌だと云え。そうすればこんな暗がりにつれてこられることはないんだ。この間で懲りただろうに。」
「ごめんなさい・・・」
「全く・・・」
「私、云おうとしたのだけれど、驚いて怖くて声が出なくて・・・」
「来い。」
葵はさっきまで引っ張られていたのとは別の腕を宗聖に引っ張られて別の路地裏に連れて行かれた。
そして、「嫌なら嫌だと云って見ろ」と強く抑えこまれて云われた。
「あの、ごめんなさい・・・」
「ごめんなさいじゃないだろう?そう云われて男が無罪放免してくれると思うのか?」
葵はただ首を横に振るだけだった。
葵はまたしても宗聖に助けられた。自分の不甲斐なさが頼りなくて恥ずかしくて体中が赤面する思いだった。
「本当にごめんなさい。こんなご迷惑をおかけするつもりではなかったのですけど・・・」
葵は謝るべきかお礼を云うべきか困惑の表情でやっと宗聖の顔を見た。
ほのかな外灯が路地に薄い光を送っているが、背中に受けているため宗聖の顔はよく見えなかった。それでも瞳の鋭さは見えた。怒っているようだ。当たり前だ。先日云われたばかりなのに、またしても同じことを繰り返している。そして2度目の今日も助けてくれた。
葵は必死の思いで言葉を出した。
「あの・・・・ありがとうございます。」
「何が?」
「助けていただいたこと。それに先日も、助けていただいて、送ってくださって・・・」
「先日の礼は貰った。」
「あのタクシー代、足りましたか?済みませんでした。」
宗聖はキスしたことをわざと口にしない葵に皮肉な言葉を云う。
「タクシー代は礼じゃないだろう?」
「それは・・・」
「じゃあ今日の分はどうする?まだタクシーに乗ってないぞ。」
「そんな・・・」
「またキスして欲しいか?」
宗聖の言葉には先日のような優しさが込められていなかった。
葵は、またしても怯えるような顔になり宗聖を見ることができない。
「そんなこと・・・ないです。」
「それともさっきの若造のほうがよかったか?またしても邪魔したか?俺は。」
「違います。そんなことありません。」
葵にしてはキッパリとした言葉が口を出た。
その勢いにそれまで暗い路地とは云え、ただ壁際に抑えこまれていた体に男の体がピッタリと張り付いた。下半身を男の両足で挟まれ、ほぼ密着している。胸元に手繰り寄せた巾着を葵はしっかりと握り締めた。
男の両手は耳を掠め壁につかれている。体中が固定されている。
顔を背けることが出来ない。
「今日の分は、今貰うことにする。」
「・・・」
「やっ、止めてください。」
「止めない。」