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16、十六 最初填满我 ...
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我花了那晚和次日两天的时间,终于从她倔强的口吻中打听出了欺骗我的把戏。
正如我所推测的那样,她来镰仓,果然是想和熊谷一起玩。说扇谷有关的亲戚那是彻头彻尾的谎言,长谷大久保的别墅才是熊谷叔父的家。
不,不仅如此,我现在租住的这间偏房其实也是由熊谷介绍的。这位花匠经常出入大久保的府邸,所以熊谷跟他谈了一下,不知道怎么说的,最后让之前的租客离开,让我们进去。不用说,那也是娜奥米和熊谷商量后做的事,什么杉崎女士的周旋,什么东洋石油的董事,都是娜奥米的谎言。
话说回来,她把事情搞得一团糟。据植总的老板娘说,她第一次来看房时,是和熊谷的“公子”一起来的,摆出一副和“公子”是一家人的样子,而且之前她就打过招呼,所以没有办法,只有打发走之前的租客,把房间让给了这边。
“老板娘,实在是太冒昧了,给你添麻烦了,对不起,你能把你知道的事情都告诉我吗?我不会在任何情况下提起你的名字。我也不会就这件事去跟熊谷对峙。我只是想知道实情。”
第二天,至今没有旷过班的我向公司请了假。
我严加监视娜奥米,警告她:“一步也不能离开房间”,并把她的衣服、着物、钱包全部收出来,搬到主屋。
我在一室之隔的房间里盘问老板娘。
“究竟是怎么一回事?我不在的时候,他们就过来了吗?”
“是的,常有的事。有时是公子来了,有时是小姐出去了……”
“大久保先生的别墅里都有谁?”
“今年所有人都回府上去了,有时也会过来,但一般只有熊谷公子一个人住。”
“那么,熊谷君的朋友呢?他们也经常来吗?”
“是的,经常来。”
“那是怎么回事?是熊谷君带来的,还是他们自己来的?”
“谁知道呢。”她说。
不过——这是我后来才注意到的,当时老板娘显得非常为难。
“……有时是各自单独来,有时是和公子一起来,每次都不一样……”
“除了熊谷君之外,还有谁一个人来过吗?”
“那个叫滨田先生的人,还有其他的人也单独来过。”
“那么那种时候,他们是不是约娜奥米出去?”
“没有,他们总是在里面说话。”
我最无法理解的就是这件事。
如果娜奥米和熊谷关系可疑,那为什么要把碍事的人拉过来呢?他们中有人来拜访,娜奥米也会跟他们说话,这又是怎么一回事呢?如果他们都喜欢娜奥米的话,为什么不争风吃醋呢?昨天晚上,他们四个男人不是还那么亲密地开玩笑吗?
这么一想,我又搞不清楚了,连娜奥米和熊谷到底有没有嫌疑都成了疑问。
但是,一说到这一点,娜奥米就不轻易开口了。
她一直坚持说,自己并没有什么不可告人的秘密,她只是想和很多朋友一起吵吵闹闹而已。
那么,为什么要这么阴险地欺骗我呢?
“papa先生怀疑那些人,是因为想太多了呀。”她这么回答。
“那么,你解释下为什么骗我别墅是关的亲戚的?关和熊谷有什么不同?”
被我这么一说,娜奥米一下子不知该怎么回答了。她突然低下头,沉默着咬着嘴唇,翻着白眼瞪我,几乎要把我的脸瞪出一个洞来。
“就是因为你总是怀疑阿麻——我觉得还是说关先生比较好。”
“不要叫他阿麻!不是有熊谷这个名字吗!”
忍耐已久的我终于爆发了。我一听到她叫“阿麻”,就恶心得犯酸水。
“喂!你和熊谷有关系吧?老实告诉我!”
“没有关系啊,你这么怀疑我,有证据吗?”
“就算没有证据,我心里也很清楚。”
“为什么?——你凭什么怀疑我?”
娜奥米的态度异常冷静。嘴角还带着些许可恨的浅笑。
“昨天晚上的那副模样,是怎么回事?你那副样子还能说自己是清白的吗?”
“那是大家把我逼得烂醉如泥,让我做出那种样子——我只是在外面走走而已。”
“好!这么说,你始终都坚持自己很清白?”
“嗯,是清白的。”
“你要对你所作所为发誓!”
“嗯,我发誓。”
“好!别忘了这句话!你说的话,我一句都不信。”
从那以后,我再也没有和她说话。
我怕她给熊谷寄信,把信笺、信封、墨水、铅笔、钢笔、邮票等等所有东西都拿走了,连同她的行李一起交给了植总的老板娘。为了让她在我出去的时候也不能出门,我给她穿上了一件皱绸制的赤红睡袍。
第三天早上,我装成去公司的样子离开了镰仓。怎样才能得到证据呢?在火车上苦苦思索之后,我决定先去已经空了一个月的大森家看看。
如果娜奥米和熊谷有关系的话,当然不可能是从夏天才开始的。我想,如果去大森翻翻娜奥米的私人物品,应该会找到信之类的东西。
那天,我乘坐比平时晚开一班的火车,回到大森家时大约十点左右。我走到正面的门廊,用钥匙打开门,穿过画室,爬上阁楼去查看她的房间。
当我打开房间的门,跨进房间的瞬间,我不禁“啊”了一声,呆呆地站在那里,说不出话来——
一看,竟是滨田一个人躺在那里!
滨田见我进来,突然满脸通红。
“嗨。”
说着站了起来。
“嗨。”
两人暂时只打了个招呼,微妙的眼神似乎看透了对方的心思。
“滨田君……你为什么会在这里?”
滨田的嗫嚅了一下,似乎想说些什么,却只是默不作声,在我面前乞怜似地垂下了脖颈。
“嗯?滨田君……你是从什么时候开始过来的?”
“我刚刚……刚刚才来。”
这次他好像下定了决心,意识到自己无论如何也逃不掉,明确地说。
“可是,这房子不是关着门吗?你是从哪里进来的?”
“从后门……”
“后门应该也上锁了……”
“是的,但我有钥匙……”
滨田的声音微弱得几乎听不见。
“钥匙?为什么你有?”
“是娜奥米女士送给我的……这么说的话,我为什么会在这里,你大概已经猜到了吧……”
滨田慢慢地抬起头,认真而又刺眼地盯着我目瞪口呆的脸。他的表情一到关键时刻就显得很正直,有一种华族少爷的气质,反而不像平时的那个不良少年了。
“河合先生,我并不是无法想到你今天突然来到这里的原因,我欺骗了你,所以无论怎样的制裁,我都甘愿接受。事到如今说这种话有点奇怪,但我早就……我想,即使被你发现了这一点,也要把自己的罪过坦白……”
说着说着,滨田的眼中泛起泪珠,顺着脸颊就啪嗒啪嗒地流了下来。
一切都完全出乎我的意料。
我默不作声,眨巴着眼睛看着眼前的情景,即使相信他的自白,我还是无法理解。
“河合先生,你能不能说赦免我的罪……”
“可是,滨田君,我还不太清楚,你从娜奥米那里拿到钥匙,来这里干什么?”
“在这里……今天……我和娜奥米女士约好了今天在这里见面。”
“啊?你和娜奥米约好在这里见面?”
“嗯,是的……而且不只是今天,我们已经约过几次了……”
渐渐盘问才知道,自我们搬到镰仓之后,他和娜奥米已经在这里幽会了三次。
也就是说,娜奥米是在我去公司之后,乘一到两班火车来大森的。一般都是早上十点左右来,十一点半回去。回到镰仓最晚是下午一点左右,所以花店的人都不知道她是在这段时间回了大森。
滨田还说,他和娜奥米今天早上约好十点见面,所以刚才我上楼时,他还以为是娜奥米来了。
面对这惊人的自白,最初填满我胸口的,竟只有茫然无措。目瞪口呆——什么也说不出来——事实上就是这样的心情。
恕我直言,那时我三十二岁,娜奥米十九岁。一个十九岁的姑娘竟然能如此大胆、如此奸诈地欺骗我!直到现在,不,即使是现在,我也无法想象娜奥米是这么可怕的少女。
“你和娜奥米到底是从什么时候开始有这种关系的?”
原谅不原谅滨田是次要的问题,我燃起了想要刨根问底,了解事实真相的迫望。
“那是很久以前的事了,大概是在你还不认识我的时候……”
“那么,我是什么时候第一次见到你的呢——是去年秋天吧?有一次,我从公司回来,看见你站在花坛边和娜奥米说话?”
“是的,距离现在正好一年了。”
“这么说,是从那个时候开始的?”
“不,还在那之前。自从去年三月起,我便到杉崎女士那儿学习钢琴,就在那里,我认识了娜奥米女士。之后没多久,大概三个月之后……”
“那时候你们在哪里见面?”
“还是在大森的这里。娜奥米女士上午不用去任何地方学习,她说她一个人很寂寞,没有办法,就让我过来玩。我一开始只是抱着这个想法来的。”
“哼,这么说,是娜奥米让你来玩的?”
“嗯,是这样的,而且我完全不知道有你这个人。娜奥米女士说,她老家在乡下,你是大森的亲戚,所以她和你是从兄妹的关系。我是在你第一次来El Dorado跳舞的时候,才知道不是这样的。但是我……那时候我已经无能为力了。”
“今年夏天,娜奥米说想去镰仓,不就是和你商量的结果吗?”
“不,那不是我,是熊谷推荐娜奥米女士去镰仓的。”
滨田说着,语气突然更坚定了。
“河合先生,不只是你被骗了!我也被骗了!”
“这么说娜奥米和熊谷君也……”
“是的,现在让娜奥米女士感到最自由的男人是熊谷。我早就隐约察觉到娜奥米女士喜欢熊谷。但我做梦也没想到,她在和我有关系的前提下,还会和熊谷变成那样。而且娜奥米女士还说,自己只是喜欢和男性朋友天真无邪地打闹,除此之外什么都没有——我越想越觉得那也没错,所以……”
“啊。”我叹着气说,“那是娜奥米的手段,我当初也是这么认为的,所以我也相信她……那么,你是什么时候发现她和熊谷变成那种关系的呢?”
“那个,你还记得有天晚上下雨,我们一起在这里睡杂鱼寝吗?那天晚上我注意到的……那天晚上,我真的很同情你。那两人厚颜无耻的态度,让我觉得不是一般的关系。我越是感到嫉妒,就越能理解你的心情。”
“那么你的发现,只是从那天晚上两人的态度推测、想象出来的……”
“不,不是这样的,有一个事实证实了我的想象。黎明时分,你好像在睡觉,但我睡不着,迷迷糊糊地……看见那两个人在接吻。”
“娜奥米知道被你看到了吗?”
“是的,她知道的。后来我跟娜奥米女士说了这件事,还请求她一定要和熊谷断了关系。我不喜欢被当成玩物,事到如今,我必须要娶娜奥米女士……”
“娶……”
“啊,对了,我本来打算把我们的恋情告诉你,然后娶娜奥米女士为妻。娜奥米女士说,你是个开明的人,只要把我们痛苦的心情告诉你,你一定会答应的。”
“我不知道事实如何,不过听娜奥米女士说,你抚养她只是为了让她学习学问,即使同居,也没有约定一定要结为夫妻。而且你和娜奥米女士的岁数大不相同,就算结了婚,也不知道能不能过上幸福的生活……”
“这种事……娜奥米说过这种事?”
“嗯,说过的。过段时间再告诉你,让你答应让我们结为夫妻——她跟我郑重约定过很多次。还说要和熊谷一刀两断。但是这都是信口胡说。娜奥米女士从一开始就完全没打算和我做夫妻。”
“娜奥米和熊谷也有约定吗?”
“这个嘛,虽然我不知道,但我想,恐怕没有。娜奥米女士已经厌倦他了,熊谷也不太认真。那个男人比我狡猾得多,所以……”
不可思议的是,我从一开始就不憎恨滨田,并且听了这些话以后,反而还产生了同病相怜的感觉。这让我更加恨熊谷了。熊谷才是我们两人共同的敌人,我强烈地感到这一点。
“滨田君,不管怎么说,这种地方也待不下去了,不如找个地方边吃饭边慢慢聊吧。我还有很多话想问你。”
于是,我把他约出来,因为洋食店不方便说话,就带他去了大森海岸的“松浅”。
“那么河合先生今天不上班了吗?”
滨田的声音也不像之前那般激动,似乎是放下了一些包袱,一路上以融洽的口吻找话题说。
“是啊,昨天我也请假了。公司最近本来就忙,不去不太好,但从前天开始,我的脑袋就闷闷的,根本没有心情工作。”
“娜奥米女士知道你今天要回大森吗?”
“我昨天在家待了一天,今天过来的时候说要去公司。那个女人可能私下里察觉到了,但她应该想不到我会来大森吧。我在那家伙的房间里找了一遍,想着是不是有lover letter(情书)呢,所以才来突击检查一下。”
“啊,是吗?我还以为你是来抓我的。不过,娜奥米女士不会也跟着来了吧?”
“不,不会吧……我离开的时候,把衣服和钱包都被拿走了,寸步难行,就这样,她大概连门口都出不去吧。”
“诶,那她穿了什么?”
“你也看过那件桃色的皱绸睡袍吧?”
“啊,是那个吗。”
“就是那件,她连一条细带都没系,没关系的,就像猛兽被关进笼子里一样。”
“可是,如果刚才娜奥米女士进来会怎么样呢?真不知道会引起什么骚乱。”
“那娜奥米和你究竟是什么时候约定好的?”
“那是前天——被你发现的那天晚上。那天晚上我闹别扭,娜奥米女士为了讨好我,叫我后天来大森。”
“当然我也不好。我应该和娜奥米女士绝交,要么就跟熊谷吵架,这是理所当然的,但我做不到。我也觉得自己很卑躬屈膝,性格又懦弱,不知不觉就磨磨蹭蹭地跟那些家伙混在一起了。所以,虽说是被娜奥米女士骗了,但其实是自己笨蛋。”
我总觉得他在内涵我。然后走进“松浅”的客堂间,面对面坐下来一看,这个男人似乎又变得可怜起来。
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ナミが私を欺いていたからくりの一端は、その晩とその明くる日と二日がかりで、やっと強情な彼女の口から聞き出すことが出来ました。
私が推察した通り、彼女が鎌倉へ来たがったのは、矢張熊谷と遊びたかったからなのだそうです。扇ヶ谷に関の親類が居ると云うのは真っ赤な嘘で、長谷の大久保の別荘こそ、熊谷の叔父の家だったのです。いや、そればかりか、私が現に借りているこの離れ座敷も、実は熊谷の世話なのでした。この植木屋は大久保の邸のお出入りなので、熊谷の方から談じ込んで、どう話をつけたものか、前に居た人に立ち退いて貰い、そこへ私たちを入れるようにしたのでした。云うまでもなく、それはナミと熊谷との相談の上でやったことで、杉崎女史の周旋だとか、東洋石油の重役云々は、全くナミの出鱈目に過ぎなかったのです。さてこそ彼女は、自分でどんどん事を運んだ訳でした。植惣のかみさんの話に依ると、彼女が始めて下検分に来た折には、熊谷の「若様」と一緒にやって来て、あたかも「若様」の一家の人であるかのように振舞っていたばかりでなく、前からそう云う触れ込みだったものだから、よんどころなく先のお客を断って、部屋を此方へ明け渡したのだと云うことでした。
「おかみさん、まことに飛んだ係り合いで御迷惑をかけて済みませんが、どうかおかみさんの知っていらっしゃるだけの事を私に話してくれませんか。どんな場合でもあなたの名前を出すようなことはしませんから。私は決してこの事に就いて、熊谷の方へ談じ込む気はないんです。事実を知りたいだけなんです」
私は明くる日、今まで休んだことのない会社を休んでしまいました。そして厳重にナミを監視して、「一歩も部屋から出てはならない」と堅く云いつけ、彼女の衣類、穿き物、財布を悉く纏めて母屋に運び、そこの一室でかみさんを訊問しました。
「じゃ何ですか、もうずっと前から、私の留守中二人は往き来していたんですか?」
「はあ、それは始終でございました。若様の方からお越しになりましたり、お嬢様の方からお出かけになりましたり、………」
「大久保さんの別荘には全体誰がいるんですね?」
「今年は皆さんが御本宅の方へお引き揚げになりまして、時々お見えになりますけれど、いつも大概熊谷さんの若様お一人でございますの」
「ではあの、熊谷君の友達はどうでしたろう? あの連中も折々やって来たでしょうか?」
「はあ、ちょくちょくおいでになりましてございます」
「それは何ですか、熊谷君が連れて来るんですか、めいめい勝手に来るんですか?」
「さあ」
と云って、―――これは私が後で気がついた事なのですが、その時かみさんは非常に困ったらしい様子をしました。
「………御めいめいでおいでになったり、若様と御一緒だったり、いろいろのようでございましたが、………」
「誰か、熊谷君の外にも、一人で来た者があるでしょうか?」
「あの浜田さんと仰っしゃるお方や、それから外のお方たちも、お一人でお越しになった事がございましたかと存じますが、………」
「じゃあそんな時は何処かへ誘って出るのですかね?」
「いいえ、大抵内でお話しになっていらっしゃいました」
私に一番不可解なのはこの一事でした。ナミと熊谷とが怪しいとすれば、なぜ邪魔になる連中を引っ張って来たりするのだろう?彼等の一人が訪ねて来たり、ナミがそれと話しているとはどう云う訳だろう?彼等がみんなナミを狙っているとしたら、何故喧嘩が起らないのだろう?昨夜もあんなに四人の男は仲好くふざけていたじゃないか。そう考えると再び私は分らなくなって、果してナミと熊谷とが怪しいかどうかさえ、疑問になってしまうのでした。
ナミはしかし、この点になると容易に口を開きませんでした。自分は別に深い企らみがあったのではない。ただ大勢の友達と騒ぎたかっただけなのだと、何処までもそう云い張るのです。では何のためにああまで陰険に、私を欺したのかと云うと、「だって、パパさんがあの人たちを疑ぐっていて、余計な心配をするんだもの」と云うのでした。
「それじゃ、関の親類の別荘があると云ったのはどう云う訳だい?関と熊谷とどう違うんだい?」
そう云われると、ナミははたと返辞に窮したようでした。彼女は急に下を向いて、黙って、唇を噛みながら、上眼づかいに穴のあくほど私の顔を睨んでいました。
「でもまアちゃんが一番疑ぐられているんだもの、―――まだ関さんにして置いた方がいくらかいいと思ったのよ」
「まアちゃんなんて云うのはお止し! 熊谷と云う名があるんだから!」
我慢に我慢をしていた私は、そこでとうとう爆発しました。私は彼女が「まアちゃん」と呼ぶのを聞くと、むしずが走るほどイヤだったのです。
「おい! お前は熊谷と関係があったんだろう?正直のことを云っておしまい!」
「関係なんかありゃしないわよ、そんなにあたしを疑ぐるなら、証拠でもあるの?」
「証拠がなくっても己にはちゃんと分ってるんだ」
「どうして?―――どうして分るの?」
ナミの態度は凄いほど落ち着いたものでした。その口辺には小憎らしい薄笑いさえ浮かんでいました。
「昨夜のあのざまは、あれは何だ? お前はあんなざまをしながらそれでも潔白だと云える積りか?」
「あれはみんながあたしを無理に酔っ払わして、あんななりをさせたんだもの。―――ただああやって表を歩いただけじゃないの」
「よし! それじゃ飽くまで潔白だと云うんだな?」
「ええ、潔白だわ」
「お前はそれを誓うんだな!」
「ええ、誓うわ」
「よし! その一と言を忘れずにいろよ! 己はお前の云うことなんか、もう一と言も信用しちゃいないんだから」
それきり私は、彼女と口をききませんでした。
私は彼女が熊谷に通牒したりすることを恐れて、書簡箋、封筒、インキ、鉛筆、万年筆、郵便切手、一切のものを取り上げてしまい、それを彼女の荷物と一緒に植惣のかみさんに預けました。そして私が留守の間にも決して外出することが出来ないように、赤いちぢみのガウン一枚を着せて置きました。それから私は、三日目の朝、会社へ行くような風を装って鎌倉を出ましたが、どうしたら証拠を得られるか、散々汽車の中で考えた末、とにかく最初に、もう一と月も空家になっている大森の家へ行って見ようと決心しました。もし熊谷と関係があるなら、無論夏から始まったことではない。大森へ行ってナミの持ち物を捜索したなら、手紙か何か出て来はしないかと思ったからです。
その日はいつもより一汽車おくれて出て来たので、大森の家の前まで来たのはかれこれ十時頃でした。私は正面のポーチを上り、合鍵で扉をあけ、アトリエを横ぎり、彼女の部屋を調べるために屋根裏へ昇って行きました。そしてその部屋のドーアを開いて、一歩中へ蹈み込んだ瞬間、私は思わず「あっ」と云ったなり、二の句がつげずに立ち竦んでしまいました。見るとそこには、浜田が独りぽつ然として臥ころんでいるではありませんか!
浜田は私が這入ってくると、突然顔を真っ赤にして、「やあ」と云って起き上りました。
「やあ」
そう云ったきり二人は暫く、相手の腹を読むような眼つきで、睨めッくらをしていました。
「浜田君………君はどうしてこんな所に?………」
浜田は口をもぐもぐやらせて、何か云いそうにしましたけれど、矢張黙って、私の前に憐れみを乞うかの如く、項を垂れてしまいました。
「え?浜田君………君はいつから此処に居るんです?」
「僕は今しがた、………今しがた来たところなんです」
もうどうしても逃れられない、覚悟をきめたと云う風に、今度はハッキリとそう云いました。
「しかしこの家は、戸締まりがしてあったでしょう、何処から這入って来たんですね?」
「裏口の方から、―――」
「裏口だって、錠がおりていた筈だけれど、………」
「ええ、僕は鍵を持っているんです。―――」
そう云った浜田の声は聞えないくらい微かでした。
「鍵を?―――どうして君が?」
「ナミさんから貰ったんです。―――もうそう云えば、僕がどうして此処に来ているか、大凡そあなたはお察しになったと思いますが、………」
浜田は静かに面を上げて、唖然としている私の顔を、まともに、そして眩しそうに、じっと見ました。その表情にはいざとなると正直な、お坊っちゃんらしい気品があって、いつもの不良少年の彼ではありませんでした。
「河合さん、僕はあなたが今日出し抜けに此処へおいでになった理由も、想像がつかなくはありません。僕はあなたを欺していたんです。それに就いてはたといどんな制裁でも、甘んじて受ける積りなんです。今更こんな事を云うのは変ですけれど、僕はとうから、………一度あなたにこう云う所を発見されるまでもなく、自分の罪を打ち明けようと思っていました。………」
そう云っているうちに、浜田の眼には涙が一杯浮かんで来て、それがぽたぽた頬を伝って流れ出しました。総べてが全く、私の予想の外でした。私は黙って、眼瞼をパチパチやらせながら、その光景を眺めていましたが、彼の自白を一往信用するとしても、まだ私には腑に落ちないことだらけでした。
「河合さん、どうか僕を赦すと云ってくれませんか、………」
「しかし、浜田君、僕にはまだよく分っていないんだ。君はナミから鍵を貰って、此処へ何しに来ていたと云うんです?」
「此処で、………此処で今日………ナミさんと逢う約束になっていたんです」
「え? ナミと此処で逢う約束に?」
「ええ、そうです、………それも今日だけじゃないんです。今まで何度もそうしてたんです。………」
だんだん聞くと、私たちが鎌倉へ引き移ってから、彼とナミとは此処で三度も密会していると云うのでした。つまりナミは、私が会社へ出て行ったあとで、一と汽車か二た汽車おくらせて、大森へやって来るのだそうです。いつも大概朝の十時前後に来て、十一時半には帰って行く。それで鎌倉へ戻るのはおそくも午後一時頃なので、彼女がまさかその間に大森まで行って来たろうとは、宿の者にも気がつかれないようにしてある。そして浜田は、今朝も十時に落ち合う手筈になっていたので、さっき私が上って来たのを、てっきりナミが来たのだとばかり思っていた、と、そう彼は云うのでした。
この驚くべき自白に対して、最初に私の胸を一杯に充たしたものは、ただ茫然たる感じより外ありませんでした。開いた口が塞がらない、―――何ともかとも話にならない、―――事実その通りの気持でした。断って置きますが私はその時三十二歳で、ナミの歳は十九でした。十九の娘が、かくも大胆に、かくも奸黠に、私を欺いていようとは! ナミがそんな恐ろしい少女であるとは、今の今まで、いや、今になっても、まだ私には考えられないくらいでした。
「君とナミとは、一体いつからそう云う関係になっていました?」
浜田を赦す赦さないは二の次の問題として、私は根掘り葉掘り、事実の真相を知りたいと思う願いに燃えました。
「それはよほど前からなんです。多分あなたが僕を御存じにならない時分、………」
「じゃ、いつだったか君に始めて会ったことがありましたっけね、―――あれは去年の秋だったでしょう、僕が会社から帰って来ると、花壇のところで君がナミと立ち話をしていたのは?」
「ええ、そうでした、かれこれちょうど一年になります。―――」
「すると、もうあの時分から?―――」
「いや、あれよりもっと前からでした。僕は去年の三月からピアノを習いに、杉崎女史の所へ通い出したんですが、あすこで始めてナミさんを知ったんです。それから間もなく、何でも三月ぐらい立ってから、―――」
「その時分は何処で逢ってたんです?」
「やっぱり此処の、大森のお宅でした。午前中はナミさんは何処へも稽古に行かないし、独りで淋しくって仕様がないから遊びに来てくれと云われたんで、最初はそのつもりで訪ねて来たんです」
「ふん、じゃ、ナミの方から遊びに来いと云ったんですね?」
「ええ、そうでした。それに僕はあなたと云うものがあることを、全く知りませんでした。自分の国は田舎の方だものだから、大森の親類へ来ているので、あなたと従兄妹同士の間柄だと、ナミさんは云っていました。それがそうでないと知ったのは、あなたが始めてエルドラドオのダンスに来られた時分でした。けれども僕は、………もうその時はどうすることも出来なくなっていたのです」
「ナミがこの夏、鎌倉へ行きたがったのは、君と相談の結果なのじゃないでしょうか?」
「いいえ、あれは僕じゃないんです、ナミさんに鎌倉行きをすすめたのは熊谷なんです」
浜田はそう云って、急に一段と語気を強めて、
「河合さん、欺されたのはあなたばかりじゃありません! 僕もやっぱり欺されていたんです!」
「………それじゃナミは熊谷君とも?………」
「そうです、今ナミさんを一番自由にしている男は熊谷なんです。僕はナミさんが熊谷を好いているのを、とうからうすうすは感づいていました。けれども一方僕と関係していながら、まさか熊谷ともそうなっていようとは、夢にも思っていなかったんです。それにナミさんは、自分はただ男の友達と無邪気に騒ぐのが好きなんだ、それ以上の事は何もないんだって云うもんだから、成る程それもそうかと思って、………」
「ああ」と、私はため息をつきながら云いました。
「それがナミの手なんですよ、僕もそう云われたものだから、それを信じていたんですよ。………そうして君は、熊谷とそうなっているのをいつ発見したんです?」
「それはあの、雨の降った晩に此処で雑魚寝をしたことがあったでしょう。あの晩僕は気がついたんです。………あの晩、僕はあなたにほんとうに同情しました。あの時の二人のずうずうしい態度は、どうしたってただの間柄ではないと思えましたからね。僕は自分が嫉妬を感じれば感じるほど、あなたの気持をお察しすることが出来たんです」
「じゃ、あの晩君が気がついたと云うのは、二人の態度から推し測って、想像したと云うだけの………」
「いいえ、そうじゃありません、その想像を確かめる事実があったんです。明け方、あなたは寝ていらしって御存じなかったようでしたが、僕は眠られなかったので、二人が接吻するところを、うとうとしながら見ていたのです」
「ナミは君に見られたことを、知っているのでしょうか?」
「ええ、知っています。僕はその後ナミさんに話したんです。そして是非とも熊谷と切れてくれろと云ったんです。僕はおもちゃにされるのは厭だ、こうなった以上ナミさんを貰わなければ………」
「貰わなければ?………」
「ああ、そうでした、僕はあなたに二人の恋を打ち明けて、ナミさんを自分の妻に貰い受けるつもりでした。あなたは訳の分った方だから、僕等の苦しい心持をお話しすれば、きっと承知して下さるだろうって、ナミさんは云っていました。事実はどうか知りませんが、ナミさんの話だと、あなたはナミさんに学問を仕込むつもりで養育なすっただけなので、同棲はしているけれど、夫婦にならなけりゃいけないと云う約束がある訳でもない。それにあなたとナミさんとは歳も大変違っているから、結婚しても幸福に暮せるかどうか分らないと云うような、………」
「そんな事を、………そんな事をナミが云ったんですね?」
「ええ、云いました。近いうちにあなたに話して、僕と夫婦になれるようにするから、もう少し時期を待ってくれろと、何度も何度も僕に堅い約束をしました。そして熊谷とも手を切ると云いました。けれどもみんな出鱈目だったんです。ナミさんは初めッから、僕と夫婦になるつもりなんかまるッきりなかったんです」
「ナミはそれじゃ、熊谷君ともそんな約束をしているんでしょうか?」
「さあ、それはどうだか分りませんが、恐らくそうじゃなかろうと思います。ナミさんは飽きッぽいたちですし、熊谷の方だってどうせ真面目じゃないんです。あの男は僕なんかよりずっと狡猾なんですから、………」
不思議なもので、私は最初から浜田を憎む心はなかったのですが、こんな話をきかされて見ると、寧ろ同病相憐れむ―――と、云うような気持にさせられました。そしてそれだけ、一層熊谷が憎くなりました。熊谷こそは二人の共同の敵であると云う感じを強く抱きました。
「浜田君、まあ何にしてもこんな所でしゃべってもいられないから、何処かで飯でも喰いながら、ゆっくり話そうじゃありませんか。まだまだ沢山聞きたいことがあるんですから」
で、私は彼を誘い出して、洋食屋では工合が悪いので、大森の海岸の「松浅」へ連れて行きました。
「それじゃ河合さんも、今日は会社をお休みになったんですか」
と、浜田も前の興奮した調子ではなく、いくらか重荷をおろしたような、打ち解けた口ぶりで、途々そんな風に話しかけました。
「ええ、昨日も休んじまったんです。会社の方もこの頃は又意地悪く忙しいんで、出なけりゃ悪いんですけれど、一昨日以来頭がむしゃくしゃしちまって、とてもそれどころじゃないもんだから。………」
「ナミさんは、あなたが今日大森へ入らっしゃるのを、知っていますかしら?」
「僕は昨日は一日内にいましたけれど、今日は会社へ出ると云って来たんです。あの女のことだから、或は内々気がついたかも知れないが、まさか大森へ来るとは思っていないでしょう。僕は彼奴の部屋を捜したら、ラブ·レターでもありゃしないかと思ったもんだから、それで突然寄って見る気になったんです」
「ああそうですか、僕はそうじゃない、あなたが僕を掴まえに来たと思ったんです。しかしそれだと、後からナミさんもやって来やしないでしょうか」
「いや、大丈夫、………僕は留守中、着物も財布も取り上げちまって、一歩も外へ出られないようにして来たんです。あのなりじゃ門口へだって出られやしませんよ」
「へえ、どんななりをしているんです?」
「ほら、君も知っている、あの桃色のちぢみのガウンがあったでしょう?」
「ああ、あれですか」
「あれ一枚で、細帯一つ締めていないんだから、大丈夫ですよ。まあ猛獣が檻へ入れられたようなもんです」
「しかし、さっき彼処へナミさんが這入って来たらどうなったでしょう。それこそほんとに、どんな騒ぎが持ち上ったかも知れませんね」
「ですが一体、ナミが君と今日逢うと云う約束をしたのはいつなんです?」
「それは一昨日、―――あなたに見つかったあの晩でした。ナミさんは、僕があの晩すねていたもんですから、御機嫌を取るつもりか何かで、明後日大森へ来てくれろって云ったんですが、勿論僕も悪いんですよ。僕はナミさんと絶交するか、でなけりゃ熊谷と喧嘩をするのが当り前だのに、それが僕には出来ないんです。自分も卑屈だと思いながら、気が弱くって、ついぐずぐずに奴等と附き合っていたんです。ですからナミさんに欺されたとは云うものの、つまり自分が馬鹿だったんですよ」
私は何だか、自分のことを云われているような気がしました。そして「松浅」の座敷へ通って、さし向いに坐って見ると、どうやらこの男が可愛くさえなって来るのでした。