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2、第2話 宿命 秘書の帰る ...
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秘書の帰る足音がして茜は立ち上がってフロアーに出た。
「お帰りですか・・・昇伯父様、分家の御長老様に宜しく・・・」
「茜も誠心誠意御当主に御使えするのだぞ、それでは夢幻斎様失礼致します。」
そんな挨拶をゆったり聞きつつ政宗はくつろぐ・・・・
やがてドアの閉まる音と共に茜と夢幻斎の足音が近づいてくる・・・そんなシチュエーションの一つ一つが愛しい。
「政宗様がこちらでお待ちです。」
茜が客室のドアを開けると白いシャツに黒いスラックスの夢幻斎が彼の目の前に現れた。
彼の透き通る白い肌、長い睫に縁取られた切れ長の瞳そして紅い唇にいつも政宗は息を呑む。
はかなげなその姿はしかし強い気にガードされている。
「政宗様、お待たせして申し訳ございません。少し取り込んでおりまして」
と政宗の向かい側に腰掛ける。政宗は灰皿に煙草を置き微笑む。
「構わんさ。予約もなしに来る時はここでゆっくりするつもりで来ているんだから。本家にいるとこき使われて
めんどくさいんだ」
茜が夢幻斎に紅茶を差し出す。
「珍しい洋菓子も食わしてもらえるしな・・・」
「政宗様は甘いものはお召しになられましたね・・・」
夢幻斎の言葉に茜は驚く。
「え?!そうなんですか???政宗様に甘いものはお似合いになられないからてっきり辛党かと・・・・」
「いくら煙草を吸う不良でも、酒は飲みませんよ。」
「意外ですね」
「茜様・・・昨日今日の付き合いじゃあないんですよ・・・俺達・・・」
「でも・・・」
見かけに惑わされてうっかりしていたのだ・・・・
「お口に合うのならシフォンケーキもプディングもございましてよ。召し上がります?」
「何だかよくわからないですが・・・上手そうですね・・・全部下さい」
「では場所を変えましょう、書斎にどうぞ。茜さん、お茶菓子は書斎にお願いします。」
二人は立ち上がって客室を出た。身長差がかなりある二人の後姿を茜はうっとり見とれていた。
「次期御当主は、お元気で?」
書斎の脇の小さめのテーブルの前に向かい合って座ると夢幻斎そう切り出す。
休息用の長いソファーに腰掛けて政宗は足を組んだ。
「義貞は元気に育っている・・・あの子は土御門の一門が守るだろう」
8つになると聞かされている政宗の息子・・・・そして父の後を継ぐ土御門家の次期当主。
夢幻斎に息子の事を訊かれると何故か後ろめたい気になる政宗だった・・・
「来栖家に一度伺いたいのだが・・・」
いきなり本題を切り出してくる政宗に夢幻際は微笑む
「来栖の叔父上もそのようにおっしゃっておいでした。今度のは東洋合体みたいですね。」
黒魔術師の組織と陰陽師矢守一門が手を組んだらしいという報告を政宗も受けていた。
「矢守は避けて通れませんね・・・」
いつの時代も土御門の宿敵は矢守・・・現在の当主、矢守和磨とは仕事で何度もぶつかっている・・・・・
「さっきまでその事を話し合ってたんだろう?」
「はい。その黒魔術師の組織と言うのが来栖の宿敵、大門一族なのです。来栖側からも正式に共助依頼が来まして
土御門の御当主との謁見の為、間に入って欲しいと・・・・」
この時の為にミサは檜山に嫁いだのだ・・・・いつも結果は後から出てくる。
「お前は・・・叔父上と話してきたのか?」
「薔薇巫女の就任式がありまして・・・・招待されて行って参りましたが・・・その時、少し・・・」
来栖一門は代々セント・ローザン教団の祭司を司る家系でこの家の長男は祭司を継承してゆくが、
不思議な事に必ず3人の娘がこの家には生まれる。そして彼女らは大聖堂と祭司を守る薔薇の巫女となるのだ.
紅薔薇の巫女、白薔薇の巫女、黄薔薇の巫女・・・・・・彼女らは独身で一生を終える。
夢幻斎の母、旧姓来栖ミサは紅薔薇の巫女であったが神託に従って檜山に嫁いだ。
当時、反対するものは多かった。言われ無き罵倒と迫害の中、ミサは檜山に嫁いだのだ・・・・・
「行く時は・・・一緒に来てくれ。キリスト教に詳しくないから不安なんだ・・・」
ええー夢幻斎はうなづく。
「陰陽師も、退魔師も根本は同じ事・・・通じるものはあります。御安心なされませ。私もついておりますゆえ・・・」
どこか夢幻斎を頼りにしている政宗はその言葉にほっとする・・・
「お茶でございます」
ノックと共に茜が入ってきた。
「手土産は何がいい?」
「水晶の数珠とか・・・宝剣などはいかがですか?」
「早速造らせよう。西洋的なものでなくていいのか?」
シフォンケーキをフォークで突付きつつ政宗は訊く。
「珍しいものがよろしいのではございませんか・・・力を宿すものならなおさらよろしゅうございましょう。」
「ふーん・・・・」
「あちらも、何か準備しているようですが・・・・」
「磔のキリスト像はやめてくれ。見るたびに体中痛いんだ。」
「痛みを感じられますか・・・」
夢幻斎はカップをとった。
「ただの痛みじゃあない。失神するところだった。」
夢幻斎はそんな情に厚い政宗が好きだった。十字架は救いの象徴として神聖なるものキリスト像然り。
それに対して痛みを感じるという政宗の優しさを夢幻斎は何より愛していた・・・・・
茜は微笑みつつっ書斎を出てゆく・・・・・
「セント・ローザンはマリア信仰ですから・・・マリア像を拝しますのでキリストの像はございません」
シフォンケーキが気に入った政宗はひたすら口に運ぶ。
「それならいい。マリア像は大好きだ。心が穏やかになる」
それに・・・マリア像に彼は夢幻斎の面影を見る。ミサに初めてあった時もマリア像に似ていると思ったが
夢幻斎はうつむきがちな仕草がそっくりなのだ。
夢幻斎は手帳を取り出してきた会議の時に書き込んでいたものである。
「来栖訪問の日取りなのですが・・・先方は聖日以外ならといつでもと・・・」
政宗も内ポケットから手帳を取り出し広げた。
「来週の火曜なら一日空いている」
「はい、そのように伝えておきます」
と手帳に書き込む夢幻斎に政宗は覗き込ん尋ねる・・・
「お前の予定は大丈夫なのか?」
手帳から眼を離さずに夢幻斎は答える
「私の予定は動かせますから・・・それに檜山一門は土御門の眷属。従うのが道理」
「堅苦しい昔の関係などにこだわるな」
シフォンケーキをたいらげて政宗は皿をデーブルに置く。夢幻斎は顔を上げて政宗を見る・・・・
表情がコロコロ変わる政宗と無表情の夢幻斎の眼が一瞬合った。
「そうはいきません。先代から政宗様によくお仕えするよう言われております。」
”あの方とお前は深い縁で結ばれている”生前の母の言葉を思い出していた・・・・
「それがお前にとっての足枷となってもか?お前を犠牲にするかもしれんぞ。」
「そのために私は生まれたのです・・・」
政宗は憤る。
「俺はそんなに大そうな人間なのか?」
「政宗様に殺されるなら本望ですよ」
何事にも執着しない夢幻斎がさらりと言った言葉に政宗は心臓を鷲掴みみされるような衝撃を受けた。
うわべとは裏腹に強い意志を感じるのだ・・・・
「一つお約束してください。私が死んだら、忘れると。」
動き始めた運命に彼も気付いている、そしてそれを受け止めている・・・・政宗は嘲笑い後に悲しい眼をむけた。
「お前も、俺が死んだら忘れろ」
「忘れません」
微笑みの中に強い意志が宿っている・・・どうしようもない運命の中で出逢い結ばれた絆・・・
夢幻斎は最期の決意まで固めたのだ。