晋江文学城
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3、【ACTⅠ 守護天使、到来】2 スペーシア ...

  •   スペーシアから切り離された脱出シャトルが、急速に戦線を離脱していく。
      WXと呼ばれる少年は、美しいセクサノイド012のしなやかな腰に抱き付いたまま、その大きな黒い瞳で、白煙とビーム砲の閃光が飛び交う宇宙空間を、実に不安気な面持ちで見つめやっていた。
      「012・・・みんな、死んじゃうの?」
      震える声で弱々しくそう聞いてきた少年を、宝石のような人口眼球で顧みると、012は、切な気な表情をしながら、挿し伸ばした掌でそっと柔らかなその黒髪を撫でたのである。
      何をも答えることなく、彼女は、コンソールパネルを指先で叩き、ワープアウト座標を設定した。
      このシャトルは、現在、自動操縦モードになっている、座標さえ設定してしまえば、コクピットに出向かなくても、惑星トライトニアまで航行可能なはずだ。
      綺麗な眉を厳しく寄せて、012が、その視線を大きな窓の向こう側に向けた時だった。
      突然、シャトル全体が小刻みに振動し、窓辺の宇宙空間から、戦闘機と思しき黒い機影が二機、急速に接近してきたのだった。
      彼女の優れた視覚センサーでは確認できるが、シャトルのレーダーには全く反応しない。
      相手は、スレテルス機だ。
      二機の敵機のうち一機が、まるで、挑発でもしているかのように、シャトルの隔壁ぎりぎりのところを、ロールしながら豪速で横切っていく。
      その一瞬で、三層構造になっている特殊ガラスの一番外側が、破裂音を上げて粉々に砕け散った。
      012の視覚センサーは、ダークブラックの両翼に描かれた青い六芒星のエンブレムを決して見逃さない。
      『ガーディアンエンジェル・・・・っ』
      苦々しくそう呟いて、012は、その美しい顔を凛と強い表情で引き締めると、静かに腰を落とし、宝石のようなブルーの人口眼球で、真っ直ぐに、WXの黒い瞳を見つめ据えたのである。
      『WX・・・・・・テロリストに見つかったようです、ここで待っていてください』
      「どこに行くの!?012!?僕を一人にしないで!!」
      少年は、黒い髪を振り乱して大きく首を横に振ると、澄んだ瞳に一杯の涙を貯めて、012の首にぎゅっとしがみついた。
      『彼等は、あなたを殺しません・・・でも、このままでは、あなたは彼等に連れ去られてしまう。それを阻止するのが、私の役目です。直ぐに戻ってきますから、待っていてください・・・あなたは男の子です、強い子のはずです・・・我慢、できますね?』
      012は、少年の華奢な体を両腕で抱き締めながら、落着き払った優しい口調でそう呟いた。
      人間の女性となんら変わらない、柔らかく暖かなその両腕を握り、少年は、星屑のような涙をポロポロと頬に零しながら、弱々しく頷いたのである。
      「戻ってきてくれるんでしょ?ずっと傍にいてくれるんでしょ?前に、そう約束したよね?僕を一人にしないって・・・012、そう言ったよね?」
      『はい・・・約束は守ります。安心してください』
      綺麗な唇が、いつものように優しく少年に微笑みかける。
      少年は、片手で涙を拭って、もう一度小さく頷いたのだった。
      それを確認すると、012はゆっくりと立ち上がり、くるりと彼に背中を向け、美しい髪を揺らしながら、ドアの向こう側に消えて行ったのである。
      そんな彼女の後姿を見送って、少年は、愛らしい顔を不安気に歪め、華奢な肩で激しく嗚咽した。
      まだ幼い少年である彼が、真実の強さと勇気を手に入れるのは、まだ、少し先の話だ。

      *
      『おい!何やってんだよあんた!?〝ハルカ〟に何かあったらどうすんだよ!?』
      ひどく憤慨したリョータロウの声が通信回線から聞こえてきて、ソロモンは、ヘルメットシールドの下で愉快そうに一笑した
      左翼のバーニアを瞬時に噴射して機体をターンさせながら、〝ハデスの番人〟と呼ばれる青年は、悪びれもせず答えて言うのである。
      「大丈夫だ、外窓が割れたぐらいじゃ、内部の空気は抜けないさ」
      特殊ガラスで囲まれた風防の向こう側で、激しい爆音と白煙を上げながら、ラボ・コロニー『スペーシア』の隔壁が吹き飛んでいく。
      どうやら、ツァーデ小隊が、コロニー内部に突入したようだ。
      紅の瞳でちらりとその様子を顧みて、ソロモンは、端整な顔を実に冷静な表情に満たすと、落着き払った口調で言葉を続ける。
      「リョータロウ、磁気レーザー射出準備。動力部だけを破壊して、シャトルごとセラフィムへ牽引する」
      『イエッサー』
      通信回線の向こう側で、不愉快そうにリョータロウが応答した時、レイバン・ノキアの通信回線に、セラフィムのブリッジ・オペレーター、ルツ・エーラの声が割り込んできたのだった。
      『艦長、ファイヤーウォールが固すぎてハッキングできません。どうしますか?このまま続けますか?』
      モニターに映るルツの神妙な顔を見やって、ソロモンは沈着な声色で答えて言う。
      「やはり無理か・・・まぁいい、中断してくれ。ツァーデ小隊が任務を完了させたら、衝撃破が来る前に、セラフィムは戦線を全速離脱する」
      『イエッサー!』
      ルツの刻みの良い声と共に、セラフィムからの通信が遮断されると、ソロモンは、再びリョータロウに向かって言うのだった。
      「そういうことだリョータロウ、時間がない、急げ」
      『言われなくても!!』
      そう答えるなり、リョータロウ機のバーニアが青い火を噴いて、一機にその機体をシャトルへと傾けていく。
      レイバン・ノキアの機体が、シャトルの後部を捉えたその次の瞬間だった、火器熱源感知を示すカーソルが、視界の下部のモニターにけたたましく点滅したのである。
      「来たな・・・」
      ヘルメットシールドの下で、ソロモンは、紅の瞳を鋭利に細めた。
      急速にこちらに近づいてくる、流星のような青い光の帯。
      肉眼でもはっきりと捉えることができるそれを、彼は、つい一年程前にも見たことがあった。
      高速戦艦ケルヴィムから、〝アダム〟を奪っていったのは、他でもない、TR-0185型、タイプΦ(ファイ)戦闘用ヴァルキリー、識別コード012。
      ソロモン自身が、〝戦場のサファイア〟と称したあの女性体セクサノイドだ。
      一年ぶりに、彼女がその姿を現そうとしている。
      たった一機で、当時、ソロモンが指揮していたケルヴィムを撃沈させた、あの美しい人型兵器が。
      敵機の急接近を知らせる警報が、レイバン・ノキアのコクピットに鳴り響いた。
      「リョータロウ、シャトルを頼む。ヴァルキリーは、俺が相手をする」
      『〝クラッシャーブレード〟には注意しろよ、気付いた時には脳天直撃ってパターンだからな!』
      「大丈夫だ。おまえと同じで、俺も一度食らった」
      『・・・イエッサー』
      リョータロウとの通信回線が遮断された瞬間、レイバン・ノキアの右舷前方に、宇宙空間を二分するような高エネルギービームの閃光が迸ったのである。
      ノキアのバーニアが青い火を吹き、軽くロールした機体を掠めるようにして、青い閃光が豪速で通り過ぎていく。
      有視界では確認できないが、レーダーのカーソルはひっきりなしに点滅し、近距離に敵機がいること示す警報も鳴り止むことはない。
      暗黒の空間に青き光芒が走った。
      ノキアの後部ミサイルポットから、16基のレーダー誘導ミサイルが、轟音と白煙を上げて宇宙空間に□□される。
      モニター上を俊足で移動する敵機に向かって、緩やかな曲線を描く正確な軌道は、確実にその機体を捕捉しているはずだった。
      だが、その視界の右端に青い瞬きが出現すると、次の刹那、凄まじい爆音を上げて全てのミサイルが大破したのである。
      同時に、暗黒の宇宙空間に上った白煙の隙間から、闇を二分するようにして高エネルギービームが連射されたのだった。
      熱源探知センサーにも、レーダーにも反応しない、ステルス機であるノキアの位置を、相手は確実に捕捉しているようだ。
      迅速で左舷に移動しながら機体を360℃ロールさせ、ビーム砲をかわしたノキアの元へ、今度は、青き流星のような光芒が急速接近してくる。
      それが、惑星トライトニアが誇る高機能セクサノイドを操縦ユニットにした、アーマード・バトラーと呼ばれる人型機甲兵器であることを、ソロモンが知らない筈がない。
      ヘルメットシールドの下で、鋭利に閃く紅の両眼が、そのメタリックブルーの機体を風防越しに捉えた。
      急旋回するノキアの下方から、突き抜けるようにして現われたアーマード・バトラー『アルヴィルダ』が、右腕に装着された対装甲レーザーブレード、俗にクラッシャーブレード呼ばれる熱線の刃を、間髪入れずに横に振るう。
      ノキアのメインバーニアが激しい炎を吹き、ピッチアップした機体の後方下部すれすれを、戦艦の装甲隔壁すら貫く三日月型の閃光が、流星の如く行き過ぎていった。
      急上昇するノキアのモニターには、特殊ガラスの風防で覆われた『アルヴィルダ』のコクピットが鮮明に映し出され、そこに搭乗する、サファイアのような青い髪を持つ美しい女性体セクサノイドの姿が、はっきりと見ることができる。
      さほど大きくないアーマード・バトラーのコクピットにあって、その全身に取り付けられた赤外線ケーブルが、彼女が、タイプΦヴァルキリーと言われる、優れた戦闘能力を有するセクサノイドであることを明白に物語っていた。
      間違いない。
      一年前、高速戦艦ケルヴィムから〝アダム〟を連れ去った、あのセクサノイドだ。

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