晋江文学城
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2、【ACTⅠ 守護天使、到来】1 宇宙戦闘空 ...

  •   宇宙戦闘空母セラフィム。
      それは、現在、行政機関の置かれているどの惑星にも属さない、『ガーディアンエンジェル』と名乗る組織が所有する、最新鋭の大型戦闘母艦である。
      テロリストと称される『ガーディアンエンジェル』は、その本来の目的が明白でない、実に謎の多い組織であった。
      だが、彼等の持つ軍事技術は、他の惑星に類を見ないほど優れており、その組織の中には、類希な知識と技術を有する有能な科学者達がいることを明白に物語っていた。
      ラボ・コロニー『スペーシア』の抵抗は、予想外に激しい。
      ひっきりなしに打ち込まれてくる対戦艦ミサイルが、セラフィムの船体を覆う防御シールドを震わせ、凄まじい衝撃の波紋を広げる。
      その巨大な船体が大きく震え、スペーシアから放たれたビーム砲の閃光が右舷前方を掠めると、にわかに、40名ものオペレーターが搭乗するセラフィムのコントロールブリッジが斜めに傾いた。
      「流石、トライトニアのコロニーね、意外に手強い・・・・・艦長、どうしますか?迎撃を続けますか?このままでは、また〝アダム〟を見失う可能性が高いかと思われますが・・・」
      大型モニターに映し出されるスペーシアの映像を、やけに冷静な視線で見やりながら、輝くようなブロンドを持つ美麗な主任オペレーター、オリヴィアが、落ち着き払った口調で、この船の全てを統括する青年にそう言った。
      オペレーターセクションを見下ろす高い座席に腰を下ろし、先程から、無言のまま、モニターに映し出される戦況を見やっていたその青年は、シルバーグレイの軍服の肩を僅かに竦め、何故か、小さくため息をついたのだった。
      背中まである長い銀色の髪と、猛禽類の鋭さを思わせる紅の瞳。
      ブロンズ色の肌に彩られた顔立ちは、端整にして精悍だが、どこか中性的な耽美さを併せ持っている。
      年頃は二十代の後半、この巨大空母の艦長というには、余りにも若く、そして、実に優美な容姿の持ち主であった。
      惑星連合諸国には、史上最悪の人物と言われ、〝ハデス(墓場)の番人〟と呼ばれる青年、それが、この戦闘空母セラフィムの艦長、レムリアス・ソロモンである。
      ソロモンは、冷静沈着な表情のまま、揺れる前髪から覗く紅の瞳で、レーダー通信オペレーター、褐色の肌と黒髪を持つルツ・エーラを顧みると、長い足を組替えながら聞くのだった。
      「ルツ、〝アダム〟の居所は掴めたか?」
      「はい艦長、今、そちらにモニター回します」
      「護衛はどのぐらいいる?」
      「セクサノイドが一体だけです」
      「セクサノイド、一体だけだと?」
      形の良い眉を怪訝そうに寄せて、そう聞き返したソロモンに、ルツは、厳しい顔つきをして答えて言う。
      「はい・・・しかし、この個体は」
      「何だ?」
      「TR-0185型、女性体セクサノイド、タイプΦ(ファイ)戦闘用ヴァルキリー・・・・高速戦艦ケルヴィムを撃沈させた、あのセクサノイドです」
      ルツの的確な答えを聞いたソロモンは、薄く知的な唇を歪め、何故か、実に愉快そうに微笑すると、片手を端整な顎の線にあてがい、やけに感心したように呟くのだった。
      「なるほど、あれなら一体だけでも十分護衛の役割を果たせるな・・・・・あの個体は、戦場のサファイアだ。トライトニアのアンドロイド技術も、あそこまでいくと賞賛に値する。一体、誰をモデルにしたか聞いてみたいぐらいだ・・・」
      「艦長!そんな悠長なことを言ってる場合じゃありませんよ!〝アダム〟の居るセクションが、スペーシアから離脱していきます!このままワープインされたら追えません!!」
      綺麗な眉を眉間に寄せて、ルツが怒ったようにそう言った。
      ソロモンは、なにやら、思惑有り気に端整な顔を綻ばせると、ゆっくりと席を立ち、鋭利に輝くその紅の両眼で、大型モニターを仰ぎ見たのである。
      「それぐらいわかってるさ、ルツ。レイバン部隊ツァーデ小隊に出撃命令を出せ、スペーシアはこのまま沈める。整備班にレイバン・ノキアの準備をさせろ、〝アダム〟は俺が確保しに行く」
      その言葉に、主任オペレーターオリヴィアが、その茶色の瞳を驚いたように見開いて、咄嗟に艦長席を振り返った。
      「艦長!?本気ですか!?あのセクサノイドと戦うおつもりですか!?」
      「これでも俺は、案外根に持つタイプでね。いくら美人なセクサノイドでも、ケルヴィムを沈められたんだ、その報復はしてやらないとな」
      やけにあっけらかんとした口調で、そんな事を言って、ソロモンは、ひどく怖い顔つきをしているオリヴィアに、緊張感もなく微笑して見せる。
      そして、ブリッジに背中を向けながら、ルツに向かって言うのだった。
      「ルツ、あのセクサノイドにハッキングをかけろ。成功したら、その回線をノキアに回せ」
      「イエッサー!」
      ルツの返事を聞きながら、ソロモンは、そのまま、ブリッジを後にした。

      *
      『全機、機体スキャン完了、エナジーバルブ接続解除、重力制御システムオールグリーン。カタパルト上昇します。各機フォーメーション・⊿(デルタ)で待機してください。
      ツァーデ小隊、出撃60秒前・・・・』

      戦闘空母セラフィムの大型ドックに、ブリッジ・オペレーター、ナナミ・トキサカの声が響き渡る。
      セラフィムの上部にある巨大な装甲ゲートがゆっくりと開き、宇宙空間戦闘用爆撃機レイバンを格納していたカタパルトが、甲高い警報音を上げながら上昇していく。
      ワープシステムを搭載した高性能ステルス戦闘機であるレイバンは、予備機をあわせ、このセラフィムに約70機格納されている。
      そのパイロット達は、ある一定の基準で選定された有能な若者達であり、中でも、このツァーデ小隊は、エース級のパイロットが在籍する精鋭部隊だった。
      発進体制に入ったレイバンのコクピットで、ヘルメットシールド越しに渋い顔つきをしていた若きパイロット、リョータロウ・マキの耳に、いけ好かぬ上官の声が飛び込んで来て、彼は、ふと、その視線を通信モニターに向けたのである。
      『リョータロウ、おまえは俺の援護に回ってくれ。ツァーデ小隊が出撃したら、その後でノキアが出る』
      「何だよ、何であんたが出るんだよ?」
      『因縁の対決ってやつだ。〝アダム〟を乗せたシャトルを追うぞ。〝アダム〟の傍には、タイプΦヴァルキリーがいる』
      「タイプΦ?・・・くっそ、厄介だな・・・で、何であんたの援護が俺なんだよ?別にアーサーでもいいじゃねーか?」
      上官に対する返答とは思えない言葉でそう答えると、リョータロウは、鋭利な黒曜石を思わせるその瞳を、ビーム砲と対戦艦ミサイルが飛びかう宇宙空間に向ける。
      『トライト二アのヴァルキリー部隊と戦って、生き残ったパイロットはおまえだけだからな。今度は、美人のセクサノイドに見惚れて撃墜なんかされるなよ』
      セラフィムの艦長、レムリアス・ソロモンのからかうようなその言葉に、リョータロウは、あからさまに不愉快そうな顔つきをすると、怒ったように吐き捨てるのだった。
      「ふざけるな!あの時は・・・べ、別に見惚れてた訳じゃねーよ!」

      『ツァーデ小隊、出撃10秒前、9、8、7、6、5・・・・』

      レイバン各機のバー二アが、最大出力で青い炎を上げる。

      『4、3、Maximum Fire Ready・・・GO!!』
      その声と共に、凄まじい轟音を上げて、レイバン部隊ツァーデ小隊が、激しい戦火を吹き上げる広大な宇宙空間へと飛び出していった。

      *
      高性能ステルス戦闘機レイバンのダークブラックの機体が、宇宙空間に溶け込むようにして、ビーム砲と対戦艦ミサイルの飛び交う中を豪速で駆け抜けていく。
      両翼に描かれた青い『ダビデの星』が、暗黒の闇で鋭利に映えた。
      ツァーデ小隊10機のうちの1機、リョータロウ・マキが搭乗する機体が、その戦隊を離れ、ラボ・コロニー『スペーシア』の左舷に向かって急速に進路を変えていく。
      リョウータロウ機以外のツァーデ小隊は、コロニーの中枢(コア)を破壊するため、隔壁を突破して内部に強行突入するはずだ。
      ツァーデ小隊のレイバンには、他のレイバンには搭載されていない、装甲隔壁破壊用高エネルギーレーザー砲、俗にソドムシンク砲と呼ばれる強力な火器が機体下部に装備されている。
      それは、敵コロニーや大型戦艦をより迅速に撃沈させるため、ガーディアンエンジェルが独自に開発した、まだ研究途中の兵器であった。
      レイバンの母艦であるセラフィムにもまた、それを大型化した砲門が一基だけ搭載されているが、エネルギーチャージをする際に、全ての動力をそこに回さなければならず、一時的に戦闘不能になるため、よほどのことが無い限り使用されることはなかった。
      レイバンに搭載されているのは、かなり小型化されたソドムシンク砲であるが、それでも、膨大なエネルギーを消費するので、一回の充填につき一度しか使用することができないという欠点がある。
      それを除けば、多大な攻撃力を持つ兵器であり、それで隔壁を破り、直接内部を爆撃して一気に手強い敵艦を沈めるというのが、現在の上等戦法だった。
      だがその戦法は、迅速且つ正確に遂行し、素早くその場を退避しなければ、即、死に直結する危険な技である、だからこそ、精鋭部隊であるこのツァーデ小隊が任務遂行に当っているのだ。
      特殊ガラスで覆われた風防の向こう側で、徐々に傾いていくスペーシアを肉眼で確認すると、リョータロウは、レーダーに映し出されるシャトルを追って操縦桿を左に倒したのである。
      その時、後方から高速で近づいてくる一機の機影がレーダーに映り込んだ。
      個体識別信号は味方のものだ。
      それも、レイバン・ノキアと称される武装強化型の指揮官機。
      間違いなく、セラフィムの艦長レムリアス・ソロモンの機体である。
      通信回線が開き、リョータロウ機の隣に並んだノキアから、ソロモンは冷静な声色で言う。
      『ワープインする前に追いつくぞ。リョータロウ、ヴァルキリーには気をつけろよ。相手は、ケルヴィムを墜した強敵だ』
      「言われなくてもわかってるよ!」
      そっけなくそう答えて、リョータロウは、眉間にしわをよせながら、ブーストコントローラーを更に強く踏んだ。
      凄まじい対空砲火の中を、2機のレイバンが、速度を上げて駆け抜けていく。
      〝ハデスの番人〟と呼ばれるソロモンが、〝戦場のサファイア〟と称した美しいヴァルキリーとの交戦は、もうまもなくである。

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