晋江文学城
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1、1 ...

  •   紫陽花祭りの人ごみから連れ出された葵は、小さな路地に連れ込まれた。提灯や灯篭で照らし出された紫陽花が咲き乱れる路地からは、死角になった薄闇の隙間。

      「やっ、止めてください。」
      「止めない。」
      大きな男の体で葵は路地の壁に釘付けにされてしまった。下半身は力強い両足に挟まれているし、逞しい両手が顔の両脇の壁につけられ、顔を背けることすらできない。唯一自由になるはずの葵の両手は小さな巾着を握り締めるのに精一杯、どうしたらいいのかわからない。

      「キスをするときは目を閉じるものだよ。」

      長髪をきれいに後ろになでつけ、きつい目をした男の顔が目の前に迫った。
      葵はロマンチックな意味ではなく、怖くて固くなって目を閉じた。いや、怖い。そう思ったとき、男の唇が触れた。いつの日かと同じく予想外に優しく触れられて葵は少しだけホッとした。
      が、その安心もつかの間、男の唇はすぐうなじへと滑り降りた。いつもはおろしている髪を今日は浴衣に合わせて結い上げていた。誰も触れたことのない場所にいきなり熱い吐息と唇を寄せられて、葵は体が震えるのを感じた。
      「・・・あっ」
      「ここいい?」
      「いや、です。お願いですから、、、止めて・・・。」
      「でも気持いい?」

      首筋で囁かれることに葵の体は敏感に反応した。自分の体が怖がっているのかどうか分らない反応をしたことが、さっきまでのと違う恐怖を感じさせる。巾着を握り締めていた指の関節が白くなるほどきつく握り締めていることも気付かなかった。
      「震えてるね。感じてるんだ?」
      「そんなこと・・・ないです。もう、止めてください。」
      葵は声が震えるのを止められない。男が云うように感じているから震えるのか、この状況に恐怖を感じて震えているのか分らない。ただ確かに体は震えている。
      「だめ、もう少し味わってからだよ。」
      そういうと男は浴衣の上から胸をまさぐり、薄い生地を通して見つけた頂を愛撫する。
      「あっ・・・」
      葵はその行為から逃げたいのに、どこにも体の行き場がない。逃げたい。怖い。いや、放して。そう思っていたのか言葉として実際に出したのかも怖くてわからない。

      「ほら感じてるんだ、俺にこうして欲しかったんだろう?それとも誰でもよかったのか?」
      心無い言葉に動揺している葵の思いとはうらはらに、小さな胸の頂は主張して固くなっている。ごつい指で転がすように愛撫されていた場所に男の顔が覆いかぶさった。
      「痛い・・・」
      男が浴衣の上から噛んだのだ。
      葵の小さな悲鳴を聞いて、今度は優しく噛んだ。もう片方の胸にも男の手がかぶさり、浴衣の上から愛撫されている。
      葵の体に痺れるような感覚が生まれた。心臓が早鐘を打ち、全ての感覚が胸の頂に集中する。布越しにも感じる熱い吐息と唇に翻弄されている。男に押さえ込まれていなかったら、その場にくず折れていただろう。
      葵の体から力が抜けるのを感じ取った男は、葵を壁から引き離し体を入れ替えた。自分が路地の壁に背を預け、葵を自分に寄りかからせて抱き寄せた。なすがままにされた葵の手から巾着が滑り落ちる。

      男はまた唇に唇を寄せてきた。
      「甘いな、お前・・・。」
      葵の唇をなめながらそんなことを云う。何も云い返す言葉など浮かばない。それでも何かを云おうとした唇の隙間に舌が割り込んでくる。
      「・・・んっ」
      初めてのディープキス。想像でしか知らないディープキス、よく知らない男にされているのに、嫌悪感がわかない。恐怖もない。ただ男が気づかうようにキスをしているということだけは本能で感じた。怖くない。むしろ優しい。さっきのように体が痺れてくる。力強い舌が歯の裏側を愛撫し、葵の舌に絡めてくる。決して強引ではないキスに葵はいつしかこたえていた。その間も葵の胸はしっかりと男の手にゆだねられている。形を確かめ、大きさを推し量るように包み込み、親指で頂を何度も何度もこすり上げられる。

      どのくらいその愛撫とキスを受け入れていたのかわからないほど、感覚が麻痺した状態で葵は体を離された。
      もう自力で立っていられない。その場にしゃがみこみそうになった葵を男が抱きとめてくれた。
      「大丈夫か?送ってやるよ。来い。」
      そういうと足元に落ちていた巾着を拾い上げ葵に持たせ、紫陽花祭りの路地とは別の大通りに向かう。人が見たら何と思うだろう。フラフラしてちゃんと歩けない浴衣姿の女と、どう見ても夜の商売としか思えないスーツ姿の男がタクシーを拾うところなど、充分いかがわしい。
      葵はそんな風に見られたり、噂されたりするようなタイプでは一切なかった。見知っている人が誰も見ていないことを祈るばかりだった。

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