晋江文学城
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4、第2話:幼馴染の境界線 ...

  •   俺と舞は恋人にはなれなかった。

      その事に今は2人とも触れていない。

      あれから3年の月日が経とうとしていていた。

      恋人未満でも俺達はそれでいい、そう納得したから。

      俺とも留美とも関係を壊したくない、舞がその気持ちを抱いているのはわかるさ。

      俺だってそう思っていたから。

      それでも前に進みたかったんだけどな、とは思うけれど留美のことを引き合いに出した事も何もいわない。

      アイツがいなければ、それだけは絶対に思いたくなかった。

      それこそ、今までの関係を壊す事だから。

      「好きか……」

      朝、目が覚めて口にした言葉。

      久しぶりに舞の夢を見ていた。

      別に何も特別な事があったワケでもない舞が俺の隣にいる夢。

      それだけでも心が温かくなるのは俺が今でも舞を好きという事だろう。

      「さっさと起きるか」

      おやっさんの店で朝食を食べてから、俺は学校の鞄を手に外へと出た。

      さぁっと吹いた春の風はとっても心地よかった。

      昼からは雨と言う予報だったので俺の手には傘を握っている。

      「今日は起こしてやるべきか」

      留美の家の前に来て俺は思案する。

      甘やかすのもどうかと思うが、今日の所は起こしてやる方を選ぶ事にした。

      また拗ねられるのもな。

      顔が可愛いだけにあまり怒らせたくはない。

      「おじゃまします」

      既に留美以外の家族はここにいないのを知ってるので、俺は挨拶だけをして彼女の部屋に入る。

      とりあえずノックだけして部屋に入ると完全無防備なウサギが寝てるわけだ。

      いつもならばすぐに起こしてやるが、今日はまだ時間があったので近くの椅子に座って、俺は彼女の寝顔を監察することにした。

      こうやってマジマジと女の子の寝顔を見るのは久しぶりかもしれない。

      昔は今みたいに彼女を女として意識する事はなかった。

      起こす時も肩を軽く叩くぐらいの今とは違い、時には布団にもぐりこむ事だってあった。

      起きた時、彼女は驚いた顔をしながらもそのまま抱き付き合って遅刻しそうになった。

      子供だったあの頃の思い出。

      だけど、今は違う。

      初めはただの子供でしかなかった留美も、中学に入ったところから女の子らしくなってきて今、こうして寝顔をみているだけでもすっかりと1人の女だ。

      “幼馴染”と“男と女”の境界線があるから。

      昔とはもう違うんだ。

      もう、子供だった時代は終わったんだ。

      そう思うと、少しだけ残念な気はするがそれが自然な事だと思う。

      だけど、彼女はまだ子供のままでいたいらしい。

      『あのさ、留美。そんなに俺に起こせっていうなら起こしてやってもいい。だがな、お前はもう18歳にもなるのに自分で起きれない上に、同年代の男を部屋にあげて無防備な寝ている姿をさらけ出すという事に対してまったく羞恥心がないのか』

      『別に未来ならいいし』

      言葉の意味を理解できないほど幼いわけがない。

      ホントに男と女というのをわからなくて言ってたなら天然ですむが、“もしも”のその先すら留美は知っていて言ってるのか。

      ……留美が俺に好意を抱いているのを知りながら、俺は今の関係を続けている。

      変わらないモノなんてない。

      そろそろ区別をつけるべきだと俺は思う。

      留美がこの境界線を守れるか。

      「試してみるか……」

      俺は彼女に近づいて、その頬を撫でる。

      「起きろよ、留美」

      何回か声をかけると彼女はうっすらと瞳をあける。

      その視線が俺の触れ続けている手にいくと、

      「お、おはよう……」

      声をつまらせながら彼女は起き上がる。

      「顔を洗ってこい」

      「うん……」

      ん?と彼女が小さく疑問を浮かべるのを見ながら、俺は次の行動について考える。

      どこまで彼女がその境界線を守れるか。

      昔のままでいられない、俺はそれを気づいてほしいと思う。

      どこまで耐えられるか、だな。

      顔を洗い終わった彼女は自分の部屋に戻ってくるとまだ部屋にいた俺に笑顔で、

      「どうしたの?あ、私の着替えるシーンがみたいんでしょ?見せてあげよっか」

      いつもなら俺が『そんなワケあるか』と出て行くのが常だが俺は、

      「そんなに俺に見せたいのか?」

      「え?」

      俺の言葉に留美は素直に驚いた。

      『冗談でしょ?それくらいわかるじゃない』

      言葉にしないがそう顔に書いている。

      だけど、俺は淡々と言葉を続ける。

      「……どうした?着替えないのか?」

      「う、ううん」

      留美は首を振って俺の言葉を否定するが、手は全く動いていない。

      どうすればいいか迷っている。

      当たり前だ、もう昔と違う。

      『別に未来ならいいし』

      この言葉には2つの意味がある。

      1つは好きだからいい、もう1つは“幼馴染”だからいい。

      この意味は俺と留美には境界線を越えるか超えないか大きな違いがある。

      彼女の真意とすれば後者の方だと俺は思っている。

      俺は今彼女にとって幼馴染の境界線を越えるかどうかを試している。

      幼馴染が何でもしていいという定義ではない。

      ただ、子供の頃と違うというのをあらためて突きつけようとしているのだ。

      「早くしないと遅刻するぞ」

      「……うん」

      彼女は時折俺の方を見ながらパジャマを脱いでいく。

      俺の方も恥ずかしくて目を逸らしたくなったが、逸らさずに見つめる。

      下着姿になり、綺麗な白い肌をさらけ出す彼女。

      「あ、あの……」

      途中で声を出しながらも、彼女はそのまま私服に着替えていく。

      スカートをはき終えてようやく着替えが終わった。

      留美は顔を赤くしたまま俺の方を向いて、

      「準備できたから……」

      「ああ」

      どうやら俺はとんでもない勘違いをしていたようだった。

      留美が俺の前で着替えたのは幼馴染の境界線を守るためなんかじゃない。

      いや、はじめから俺と留美はもう既に超えてしまっていた。

      今、彼女が俺の前で着替えたのは俺が好きだという気持ちだけ。

      幼馴染としてではなく、1人の男と女として俺に接している彼女。

      留美の手が微かに震えている。

      「意地悪……」

      小声で俺を責める彼女。

      俺は何も言い返さずにその責めをうけいれる。

      「どうして私にばかり意地悪するの。私だって……たまには優しくして欲しいよ」

      よほど今回の事が堪えたのか彼女は涙ぐんだ瞳をしていた。

      傷つけてしまったことに罪悪感を感じる。

      子供なのは俺の方か……。

      「私も舞のように優しくされたい。未来は私を幼馴染として、妹程度にしかみてないかもしれないけど。私だって女の子だよ……、子供のままじゃいられないのもわかってる」

      「……留美」

      「……なんてね。ちょっと朝からいじめられたから拗ねて言ってみただけ」

      彼女は涙を拭ってからいつものような笑みを浮かべた。

      今まで俺に見せなかった姿、そんなようなものを見てしまった気がした。

      「明日からもちゃんと起こしてよね」

      「はいはい」

      シリアスな雰囲気が消えたのに安心しつつも、新たな不安が残る。

      この件はやはり俺達の間に影をおとすことになる。

      留美は俺の思っている以上に大人で、俺は自分の思ってる以上に子供だった。

      彼女は俺を幼馴染以上に見ている、それなら俺はどうなのだろうか……。

      【 To be continue… 】

      ☆次回予告☆
      留美とのデート。
      舞への誕生日プレゼントを買いに街に出る2人。
      今まで意識してなかった事まで、
      留美を意識してしまう未来。
      留美はそんな態度の未来にある事を思いついて……。
      【第3話:咲き乱れる花】
      女として意識してしまう。
      俺の知らない留美がここにいる。

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