晋江文学城
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3、第1話:望まれぬ思い ...

  •   いつからだろう、俺が舞のことを好きになったのは。

      いつからだろう、なんて過去を思い返すような言葉は使う必要はない。

      初めからだ、舞と生まれて初めて出会った頃から俺は彼女が好きだった。

      俺達7人は昔からずっと一緒だったワケではない。

      初めはうちの2軒隣に住む留美と最初に知り合い、それから父同士が仲良くて知り合ったのが梓、幼稚園に入ってからは雄輔と隆樹、悠里と知りあう事になる。

      そして、最後に小学校に入学してからはじめて俺は舞と出会った。

      舞は俺にとって特別な存在だった。

      初めて会話を交わしたのは小学校の入学式の日。

      元気印の悠里がさっそく友達作りをしていて舞を含む数人がそこにはおり、偶然近くにいた俺が巻き込まれる形で彼女に紹介された。

      「あ、ミライ。ちょっとこっちにきて」

      「何?」

      「皆、新しく出来た友達なの。ミライも自己紹介して」

      なぜ俺まで、と言いたかったのだが俺は舞と顔を初めてあわせてしまった。

      はっきり言えば一目惚れって奴だ。

      恋という言葉すら知らない俺はそれが何の感情かも分からないまま彼女に視線を釘付けにされた。

      まるで人形のように可愛らしい容姿に、人を惹きつけてやまない笑顔。

      「ミライ?」

      「あ、ああ。俺の名前は長谷部未来、よろしく」

      「私は水崎舞っていうの。こちらこそよろしくね。未来君っていうんだ。すごくカッコイイ名前だね」

      この時点で俺はもう彼女の魅力に負けた。

      可愛すぎる、天使が舞い降りたっていうのはこういう事だね。

      その後、彼女は俺のあだ名として『ミクちゃん』と呼び始めた。

      別に舞になら“ちゃん付け”されても全く気にしないが、なぜミクなのかと尋ねると、

      「他の子は皆、未来君って呼ぶでしょ。私は……皆と違う呼び方で貴方の名前を呼びたかったから。そういうのってダメかな?」

      無意識に俺だけ“特別”扱いしてくれる舞にもう俺はメロメロ(死語)だった。

      寝ても覚めても舞のことばかりを優先する学校生活。

      そんな生活も気づけば小中高と過ぎて、12年目に入ろうとしていた。

      そんじょ、そこらの恋愛と一緒にする事なかれ。

      ただし、12年も片想いしてるってどうよ、とは言わないでくれ。

      まぁ、18年の人生の中で12年というのは長いというより人生そのものだけどな。

      それに俺だってただ片想いしてるだけじゃない。

      世間一般で言う告白だってしてるのだ、実は。

      これは戦艦のミサイル□□コードくらいの重要機密なのだが、中学3年の冬に告白してしまったのだ。

      それはクリスマスイブを迎える数日前の事。

      俺は舞にあげるプレゼントを購入して、気分ルンルン(死語)で自宅に帰る途中だった。

      駅前で偶然にも舞と出会った俺は手にしたプレゼントを隠しながら、彼女と会話しながら帰っていた。

      話の内容は政治経済の話ではなく、クリスマスについての話が中心だった。

      ちなみに言うが俺は社会全般が苦手なので政治の話などされても全く知らん。

      クリスマスパーティーは基本的にこの村で1番でかい家に住んでいる雄輔の家で行う。

      さすが村長さんのお家というべきか俺達庶民の家の約10軒分の敷地に建てられた和風の豪邸に集まる。

      メンバーの中で2番目にでかいのはお嬢様の梓の家だ。

      あれも普通の家より大きいし、洋風建築がいかにもお嬢様って感じを受ける。

      俺達、庶民には2人は手の届かない存在だったりするんだよ。

      彼らは性格的に金持ちを前面に出すような人じゃないから、友達でいられるけどな。

      ……と話が横にずれてしまったが、そのクリスマスパーティーではなんと舞い手作りのケーキがふるまわれるという超豪華なパーティーになるわけだ。

      彼女は料理も上手なのでそれが楽しみでしょうがない。

      「舞の料理が楽しみだな」

      「ありがと、ミクちゃん。でも、私だけじゃなくてるーちゃんや梓さんも手伝うんだから。相変らず、悠里は食べるの専門だって今回も料理には参加しないみたい」

      「アイツらしいな。で、それよりも聞き捨てならない事を聞いたんだが。留美が手伝って本当か?今ならまだ間に合う。悪い事は言わない。留美には料理させちゃいけないぞ」

      留美の料理は破壊しか生まないリーサルウエポン的料理だからな。

      調味料の味加減がいい加減のせいで、まともなものができた試しがないのだ。

      舞のすばらしい料理を汚すような事は全身全霊をかけてもさせない。

      「それは言い過ぎだって。るーちゃんだって頑張ってるんだから」

      「例え、頑張っていても醤油を少々いれるのを、瓶まるごと使う味覚オンチどころか頭おかしいんじゃないレベルのミスをする女には料理させるのは危険すぎる」

      「あれはひどかったよね……。あっ、そうじゃなくて……」

      さすがに天使な舞でも留美の料理のひどさはフォローできないらしい。

      「ほら、今度は私達もいるし大丈夫だと思うよ」

      「無理しなくてもいい。アイツは危険だ、目を離せば地獄をみる。愛さえあればOKみたいな事を許してはいけない。ていうか、留美には料理させるな」

      厳しくしなければ明日の日の出が見られないかもしれないんだからな。

      俺の言葉に舞は苦笑いしながら、冷たくなった手を俺の頬にピタッとくっつける。

      「そういう事は言っちゃダメ。るーちゃんだって美味しくないものを作りたくて作ってるわけじゃないんだから」

      「舞、それフォローしてるようで全然フォローしてない」

      俺達はそんな事を話してるうちに舞の家の前まできてしまった。

      楽しい時間はアッと言う間に過ぎ去る。

      「それじゃ、また明日な」

      「うん」

      俺は彼女を家まで送り届けて去ろうとしていた時、事件が起きた。

      うっかりと俺は彼女のプレゼントが入った袋を落としてしまったのだ。

      その落としたプレゼントが彼女の前に転がる。

      まだラッピングもしてない買いたてのそれを舞が拾い上げる。

      「大丈夫?……あれ?」

      そして、彼女は気づいてしまった。

      それが俺の買った今年のプレゼントだという事に。

      「ミクちゃん……これって」

      「しまった。あ~あ、バレちゃったか。内緒にしておきたかったんだがまぁいいや。それは今回の舞へのクリスマスプレゼント。ちょっと前に欲しいって言ってたろ?」

      「うん……」

      それは俺達がデートした時に彼女が欲しがっていた深い蒼い色をした石のついたネックレスだった。

      値段としては中学生が買うには高すぎるものだった。

      だが、それで舞が喜んでくれるのならと買ってきたのだ。

      「……これってけっこう高いよね?」

      彼女はやはり値段を気にしているようだ。

      だから、気にさせないようにプレゼントするまでは黙っていたかったのに。

      俺の計画が崩れてしまったがこの際仕方がない。

      「それは気にしないでいいんだ。それよりも気に入ってくれたか?俺にとってはそっちの方が気になるんだけどさ」

      「うん。嬉しいよ、ありがとう。でも、プレゼント先に見ちゃったのは残念だったかも」

      「……後でちゃんとラッピングしてもらっとくから、それまで忘れておいてくれ」

      そんな俺の言葉に彼女は「忘れました」って可愛く笑った。

      「ミクちゃんって本当に優しいよね」

      「そうかな。そう面と向かって言われると照れるが」

      「私はミクちゃんのそういう所好きだよ」

      天下無敵の微笑みに俺は思わず小躍りしたくなる気分を抑える。

      舞からそういう風に思われるのは素直に嬉しい。

      「……たまにはるーちゃんにも優しくしてあげれば?いつも喧嘩してるじゃない」

      「あー、あれは別にいいんだ。本気でいがみあってるワケでもないし。そういう関係なんだって互いに認識してるから」

      「そうかな。るーちゃんだってホントはミクちゃんに優しくされたいって思ってる」

      アイツがそんな事思ってるわけないだろ、と俺は即答したかった。

      付き合いの長い留美には俺が舞に抱いてるような感情も、優しく接しようとも思わない。

      そりゃ、傍にいれば心地よさは感じるけどな。

      「あれは別だよ、別」

      「それじゃ、どうして私には優しくしてくれるの?」

      舞のその言葉に俺はどう言えばいいのか迷った。

      どうして優しくするのか、そんなのは決まってる。

      舞のことが好きだから。

      俺はその時、ほんの少しの過ちを犯した。

      「……舞が好きだからに決まってるだろ」

      「え?ミクちゃん……?」

      「それじゃ答えになってないかな……」

      俺はこの時、“友達として”という言葉をつけるべきだった。

      こんな何でもない会話から告白するのはあまりにもムードもないし、そして、この関係を壊すんじゃないかという10代の恋愛特有の悩みすらも吹っ飛ばしていた。

      俺の言葉に舞は顔を赤らめてどうすればいいかわからないといった表情をしながら、

      「……それって告白?」

      「え?あ……」

      ようやく自分が何を口走ったのかに気づく。

      遅すぎた思考回路に三段蹴りをかましたい気分になりながらも俺は否定の言葉は言わない事にした。

      深呼吸をひとつしてから俺は彼女に向かって言葉を紡ぐ。

      「俺は舞が好きなんだ。……俺と付き合ってくれないか?」

      「……ミクちゃん」

      彼女は俺のことをどう思ってるのだろう。

      それを知りたかっただけかもしれない。

      舞に伝えてしまって俺はどうしようもない焦りにも似た気持ちを抱いていた。

      「ごめんね、ミクちゃん。私はミクちゃんの恋人にはなれないよ……」

      「舞……」

      舞はその言葉を口にしてから涙を見せた。

      関係が壊れたとかじゃなくて、俺はその涙の意味を知りたかった。

      「何で、舞が泣くんだよ。傷つけてしまったならごめんな。そういうんじゃないんだ」

      「ううん。……違うよ、ミクちゃんのこと嫌いだからじゃない。私もね、ミクちゃんの事は好きなの。好きだけど……ダメなの」

      彼女の口から好きと紡がれたのに俺達は結ばれない、それはどういう意味なんだろうか。

      「……るーちゃんもミクちゃんのことが好きだから。私、相談受けてるから。だから、るーちゃんからミクちゃんは奪えない」

      舞の話によると、数年前から留美に俺が好きだという相談を受けていたらしい。

      それを応援していた舞が俺と付き合うのはできないという話だった。

      留美が俺を好き、薄々気づいていたから驚きはしないが、ここでそうくるか。

      「そっか。……そういうことなんだ」

      「ごめんね、ごめん……」

      「ああ、もういいよ。泣かないで、舞」

      俺は舞の身体を抱きしめて涙を拭う。

      「舞、今日の告白は聞かなかった事にしてくれ。今はまだ何もなかった事にしておいて欲しい。留美の事、きっと時間が経てば解決するから。その時まで待ってくれるか?」

      「……ミクちゃん」

      俺は恋人になれない事に辛さを感じていたものの、関係が壊れなかった事にホッとした。

      それはこの子も同じなんだろう、抱きしめてくる彼女の気持ちが伝わってきた。

      【 To be continue… 】

      ☆次回予告☆
      留美と未来の関係。
      幼馴染以上恋人未満。
      そんな言葉の似合うふたりの関係。
      だが、実際は複雑な感情が入り乱れていた。
      そんなある日、未来はある行動を起こす。
      【第2話:幼馴染の境界線】
      男として、幼馴染として。
      どこまでするのか、できるのか?

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