晋江文学城
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24、第22話:償われぬ罪 ...

  •   私と未来との関係、何かが狂ってしまっていた。

      私が望んでいた世界はこんな世界ではなかったはず。

      皆、誰もがそう思っている。

      舞を失って、全てが一転するように変わり始めた。

      舞の死からまもなく、1週間が経とうとしている。

      今日は12月31日、大晦日の日だ。

      朝、私が目を覚ますと“いつものように”未来が私のすぐ傍にいた。

      『……ごめんな、留美……舞が死んで悲しいのは俺だけじゃないのに』

      あの日、私は仮初の愛を感じた気がして満たされていた。

      未来に抱かれた事自体は私は逆に喜びさえ感じている。

      それが例え、私の心ではなく身体だけを求められていたとしても。

      愛なんて幻で、彼は私の事なんて見ていない。

      その証拠にあれから未来は何度か私を抱いたけれど、行為の最中は私の名前を一切呼ばないし、好きとも言ってくれない、キスだってしてくれない。

      キス……そう、私はまだ未来とファーストキスさえすましていなかった。

      したいと何度もねだるけれど、彼はその度に無視していた。

      私を求めて欲しいとは思うけど、あの人の心の中には舞がい続けている。

      私では舞の代わりなんてなれない。

      あの子のように未来を満たしてはあげられないから。

      だから、私は私にできることをする。

      私にできるのは彼の孤独を癒すために、未来の傍にいることだけ。

      「……でも、いつかは私の事を本当に求めてよ」

      私はまだ眠っている彼にそう呟いた。

      ……彼が私の部屋で寝ているのは、単純に彼が昨日泊まっていったから。

      事故の怪我はまだ完治はしてないけれど、ずいぶんよくなってきてから、ここ数日は彼が私とこうして寝ることは多くなった。

      互いの両親は私達が一線を越えているのに気づいている。

      普通に隠してないからでもあるけれど、こうしてお泊まりしても何も言っては来ない。

      今のところは様子見でもしようと思っているのかな?

      と、そんな事を考えていたら、ようやく彼が目覚めた。

      「……なんだ、今日は早起きなんだな」

      あくびをかみ殺しながらそう言うと、

      「私もそんなに寝坊ばかりしてないもん」

      「そうか?お前の寝起きの悪さだけは俺が誰よりも知っているんだけどな」

      多分、未来は気づいてないだろうけど、私はホントは結構寝起きはいい。

      私がいつも遅い時間に起きていたのは未来に起こしてもらうためだって、知ってた?

      未来が私を起こしにきてくれる、それだけがあの頃の私にとって大切な時間だったから。

      そんな意地悪を言う彼に私は口を膨らませて、

      「そんな事言う人にはご飯は作ってあげません」

      「……すいませんでした」

      「よろしい」

      私達は支度を済ませてからリビングに下りて料理を開始する。

      朝の食事は基本的に私が作り、未来が細かな用意をする。

      はじめ私が料理を作ることに彼は怪訝な顔をしていた。

      『お、お前が料理を作るって本気で言ってるのか?』

      あれは恐怖というべきかな?

      とにかく、そんな侮辱をされた私は挽回とばかりに自分の腕を彼に見せ付けた。

      確かに私は子供のころはひどい物を彼に食べさせた経験はあるけれど、さすがに高校生になってからは人並み以上のものを作れるようになっていた。

      『留美のマズイ料理より舞の方が断然美味しいに決まってる』

      それはかつて彼が私に隠れて言っていた言葉。

      その言葉が私に料理を真剣に覚えたいという気にさせた。

      あれから数年、私は今未来のためにちゃんとした料理を作っている。

      『美味しい?』

      『ああ。ホント、あの悪魔の料理を作ってた留美とは思えないな。やるじゃん』

      彼は美味しいと認めてくれたし、私も認めさせたことに嬉しさを感じていた。

      人のために料理をすることは楽しい。

      それは未来が私に教えてくれたことだ。

      「……どうした?さっきから俺の顔を見て?」

      「別にっ♪それよりも、さっさとお皿を用意して」

      「ほら、これでいいのか?」

      「うん」

      舞の死から数日しか経ってないのに、私達は互いに依存しつつ、現実から“目”をそらし始めていた。

      2人が幸せそうに笑顔でいられるなんて、表面上だけだったから。

      お昼になって、未来は大学に行くための勉強を、私はいつものように病院へと向かう。

      未来は再び受験に向けての勉強をし始めた。

      舞と共に目指していた大学とは違う別の大学を目指すと言っていた。

      彼の中で自分の目指すべきものが見つかったのかもしれない。

      少しずつ笑えるようにもなってきたし、前を向いてくれたということかな?

      舞に縛られて暗い未来は見たくなかったので、素直に嬉しい。

      「……どうかしたのかしら?今日はずいぶんと嬉しそうな顔をしているわね」

      「そうですか?」

      私は担当の神崎先生が私の治療をしながらそう言った。

      「そう。とてもいい顔してるわ。例の彼、長谷部君といい事あったみたいね」

      「はい。いろいろと。変化はありました」

      私が頷くと彼女も嬉しそうに笑った。

      その笑顔で、私もいろいろ気にしているのを一時的にも忘れられる。

      医師という職業上、患者を安心させるのに長けているなと感心する。

      「……頭部の怪我の方はもう大丈夫ね。足の方もあと2、3週間で普通に歩けるには問題なくなると思うわ。ただ……」

      私は自分の胸を見て嫌な気持ちになる。

      「……この傷痕は残りますか?」

      「そうよね。女の子としては気になるわよねぇ」

      あの事故の深い傷痕が私の胸にはある。

      その傷を見るたびに私は舞の事を思い出す。

      事故の悲惨さを思い出させるその傷は、私にとって辛いだけでなくこの傷を見せてしまう相手、未来にとっても辛いはずだから。

      「痕が残るかどうかはまだわからないわ。この程度の傷ならきっと薄く残るぐらいですむとは思うけれど、完全に消えるのかはまだ、ね」

      全ては抜糸がすんでからの話だって、傷痕が残ると嫌だな……。

      「それじゃ、次は……そうねぇ。明々後日ぐらいにまた来てくれる?」

      「わかりました。ありがとうございます」

      私は先生にお礼を言って、病院を出た。

      すると、病院の入り口の所で未来が待っていてくれた。

      「よう、結構遅かったな」

      「未来?どうしたの?」

      「晩飯の材料、買いに行こうって言ってたろ?俺も勉強終わったし、このまま行こうかなって思ってさ」

      彼が迎えに来てくれたことに驚きながらも、私は心が温かくなる。

      私は彼の自転車の後ろに乗りながら、スーパーまでの道のりの間、会話をしていた。

      「傷の方はどうだった?」

      「頭の方はもう大丈夫だって。足もあと2週間くらい」
      「そうか。よかったな」

      私はあえて胸の傷の事は黙っていた。

      聞かれない限り、答えない方がいいとも思ったから。

      未来は知ってか知らずか、その事には触れなかった。

      彼の背中につかまって夕陽の道を自転車が走る。

      私はその背中ごしの温もりが好きだった。

      初めて二人乗りしたのは小学生の頃だったかな?

      初めは怖かったけど、慣れると安心感と一体感みたいなものを感じられて、私は好き。

      「今日はどうする?大晦日だけどさ、神社にも行くのか?」

      「当たり前じゃない。毎年そうだったでしょ?」

      大嶺神社への新年の初詣。

      いつも未来たちと一緒に行っていたけれど、今年は他の皆とは連絡がつけてない。

      そもそも舞の死後、皆と集まったこともないし。

      何だかあれ以来、私達の関係はホントに変わっちゃったんだな、って思った。

      「そうか。じゃ、今年は2人で行こうぜ。向こうにいけば誰かに会うかも知れないしな」

      「うん。そうだね」

      私達は年越し用のお蕎麦といつもよりも豪華な夕食用の材料を購入する。

      家に帰ってから私達は夕食の準備に取り掛かった。

      うちの両親は今年も家にはいないだろうし、2人分しか作らない。

      「未来はお蕎麦は大丈夫だよね?」

      「ああ。蕎麦がダメなヤツっているのか?」

      「うん。アレルギーとかある人って結構いるみたいよ」

      そんな雑談をしていると、未来の携帯電話がなる。

      「電話か、すまん。後は任せた」

      彼はそう言って持ち場を放棄して携帯電話に出る。

      誰からだろう?と私は気になりながらも料理の途中だったのでそちらに集中する。

      「……ああ。俺なら大丈夫さ。そうだな、それじゃ時間に」

      話し方からして、隆樹君か雄輔君が初詣の話でもしてるっぽい。

      「ああ、また後でな」

      未来が電話を切って、私に「雄輔が初詣に一緒に行かないかって」と言った。

      「うん。皆で行こうよ。あ、ご飯できたから食べよう」

      私は内心、2人で行きたかったのにな、という気持ちを持っていたけれど。

      2人で過ごす、って簡単なようで意外に難しいんだなって私は感じた。

      初詣を終えて家に帰ってきたらもう2時を過ぎていた。

      私達はお風呂に入ってから、「いい夢見られるかな?」と言いながら眠ることにした。

      私がその声に気づいたのは朝の4時頃。

      未来の呻くような声に私は薄っすらと目を開くと汗をいっぱいかいている彼がいた。

      まるで悪夢でもみているようだけど、どうしていいかわからずにとりあえず彼の汗をぬぐおうとタオルで額に触れようとする。

      その時、彼は私に聞こえるはっきりとした声でその名前を口にした。

      「……好きだ、舞」

      私の手が止まり、未来が見ているのが舞の夢だと分かった。

      彼が本当に必要としているのは私じゃない。

      これは確認、分かりきっていたはずなのに……。

      私はいつのまにか、表面的な幸せに溺れ、現実から目を背けていた。

      幸せに見える私と未来は……心では何も繋がっていない。

      私は……舞のように愛されていない、ただの代わりでしかない。

      「未来……愛してる」

      そう、眠っている彼に囁く事でしか、今の私には愛を伝えられないんだ。

      「……それでもいいと決めたじゃない」

      なのに、私は自分の立場に泣きそうになる。

      何度、私はこの関係に涙したか……私は死んでもなお、舞には勝てない。

      舞はもういないから永遠に勝てないんだなって思うと、とても切ない気持ちになる。

      だけど、私はどんなに傷つこうとも彼の傍にいたいんだ。

      私は未来が好きだから、それが例え……別れの道に進んでいるとしても。

      【 To be continue… 】

      ☆次回予告☆
      舞の死から3ヵ月。
      未来はようやく現実を受け入れ始めた。
      自分の犯した罪の重さと、傷ついた留美の姿。
      未来の立ち直り、その代償はあまりにも大きかった。
      そして……事態は最悪の方向へと誘われていく。
      【第23話:自分勝手な想い】
      留美がどんなに俺を愛してくれているか。
      それを知りつつも、俺の心は未だに舞のモノだった。

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