晋江文学城
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6、第4話:天使の生まれた日 ...

  •   日曜日は舞の誕生会の日だった。

      俺達はいつもの喫茶店に集合していた。

      おやっさんに頼んで、特注のケーキを作ってもらい、1番奥のテーブルを貸切にしてもらっていた。

      昔からこのメンバー7人は毎年、誰かの誕生日になるとこうして集まる。

      こういうパーティー形式になったのは最近になってからだ。

      都合よくおやっさんは了承してくれている。

      ただし、後片付け&他の客の迷惑にならないという条件付きだが。

      「誕生日おめでとう、舞」

      俺達は彼女を囲んで舞の誕生日を祝う。

      「皆、ありがとう」

      隣で微笑む彼女に俺は見惚れていた。

      舞が喜んでくれると俺まで嬉しくなる。

      「はい、プレゼント。気に入ってくれるといいんだけど」

      留美が彼女にプレゼントの包みを渡すのを合図に皆が大小の包みを彼女に渡した。

      一般的にプレゼントというのは気持ちの問題だという人がいるが、いらないものをもらってもしょうがないというシビアな考えの人もいる。

      俺としては気持ちの問題半分、現実的な考え半分と言ったところか。

      その辺りが難しいのだけどさ。

      俺も彼女に品物を手渡すと、彼女は「あれ?」という顔をする。

      「どうかしたの?」

      梓が表情を変えた舞に声をかける。

      俺だって何か不安になるが、その疑問はすぐに晴れた。

      「ううん、何だか重たいから何が入ってるんだろうって。ミクちゃん、中身は何?」

      「自分の目で確かめて欲しい。ヒントは割れ物」

      「割れ物?」

      彼女が包装をとくと中には例のティーカップとティーポッド。

      「……ティーカップだ」

      彼女が黙ってカップを見つめる姿に皆の視線が向かう。

      まさか俺は選択をミスったのか?

      こんな物いらないとか言われたら、人生最大のショックを受けるであろう。

      やばい、やばすぎるぞ……。

      「……舞?もしかしてこういうのは嫌いか?」

      「ううん、これ前から欲しかったカップなの。それをミクちゃんがプレゼントしてたから嬉しくって。ミクちゃん、ありがとう」

      舞に喜んでもらえた事に俺は嬉しいやら恥ずかしいやら複雑な気持ちになった。

      「喜んでもらってよかった。ホントはさ、こういうのっていいのか悪いのかわからなくて、舞の好みかなってヤツを選んだだけだったから」

      「ふふっ、それならミクちゃんは私の好みを本当に理解してくれているんだね」

      くすりと笑みを浮かべた舞にドキドキさせられる。

      「鼻の下のばしすぎ」

      そんな俺の幸せを留美の冷たい言葉が壊す。

      いいじゃないか、俺の些細な幸せを壊すなよ。

      その後はみんなで楽しく騒いで気がつけば俺は舞だけを見ていた。

      笑ってる舞ってホントに可愛いなって思う。

      だから、俺はずっと気づいていなかった。

      寂しそうに俺の方を見ていた留美の視線には……。

      誕生会も終わり、俺と舞は2人で帰り道を歩いていた。

      俺は彼女のプレゼントを両手に持っていた。

      「ごめんね、ミクちゃん。私だけだと重たくて」

      「気にするな、っていうか1番重たいのは俺のあげたやつだし。それに俺は舞のためにならに持つもちでも何でもするから」

      「ありがとう」

      ずいぶんと日も暮れてきて、もうすぐ夕方になる。

      彼女の視線は薄い朱色に染まりかけの空に向けられていた。

      ふいに彼女は囁くような声で、

      「夕焼け……」

      「夕焼けがどうかしたのか?」

      「ずっと前にね、ミクちゃんと一緒に見たあの場所の夕焼けを思い出したの。あの時もこうして2人っきりだったなって」

      「ああ、そうだったな」

      あれはもう5年以上前のことになるか。

      懐かしくて、俺達にとって良い思い出の場所。

      そういや、俺もずいぶん行ってないな。

      「だったら今から行くか?」

      「え?今から?」

      俺の提案に彼女は迷うような素振りを見せてから、はにかむような表情を見せた。

      彼女の家に荷物を置いてから、俺達は自転車に二人乗りをしてその場所へと向かった。

      「しっかりつかまってろよ」

      「うん」

      自分の背に舞の手が回されて、心地のよい感触を背中越しに感じながらペダルを踏む。

      こうして舞と二人乗りをするの初めてだった。

      留美とならもう数えられないくらいしていたのに。

      俺はふと自分が舞と留美を比べている事が多いのに気づく。

      留美とならいつもしている事が舞とするだけでとても新鮮に思えた。

      だが、それは裏を返せば俺と留美は本当に何でもしているんだと改めて思う。

      いつも一緒か……。

      別に舞、梓や悠里とも俺は仲はいいし、留美だけ特別に一緒にいるわけではない。

      そのはずなのだが、いろんな事を経験した相手は留美の方が多い。

      ……留美が俺の事を好きだと知った今でも俺は彼女を避ける事もなかった。

      曖昧な気持ちのままで接しているから彼女も俺も舞も微妙なバランスを保ちながらこうして遊んでいられる。

      もしも俺が舞と付き合ってしまったら俺達はどうなるのだろう。

      どうなるか、その先を感じているからこそ俺も舞もあと1歩が進めないんだ。

      「ねぇ、ミクちゃん。風が気持ちいね」

      「そうだな」

      突然、ぎゅっと彼女の回していた手に力がはいる。

      「私、ミクちゃんとこうするの初めて。今までるーちゃんがミクちゃんと一緒に二人乗りしてるのは見た事あったけど、怖そうだって思ってた」

      留美は昔からああいう性格だからな。

      控えめな印象がある舞とは違う。

      「でも、怖くない。ミクちゃんと一緒なら怖くないよ。むしろ……嬉しいし楽しい」

      「俺もそう感じてる」

      舞からそういう言葉を聞くなんて。

      彼女もまた俺と触れ合う事を望んでくれていた、そう思うと俺は口元を緩めた。

      ようやく神社に着いた頃にはちょうどいい具合に夕陽が沈んでいた。

      境内の奥を抜けて湖がある方へ数分歩いていくと開いた場所に出た。

      湖とこの村全体を見渡す事のできる高台、その場所から見える夕陽は最高の景色だ。

      「やっぱりいつみても綺麗だね……」

      「ああ」

      この場所は俺だけの秘密の場所で、誰にも言った事がなかった。

      それを舞に紹介したのは今から5年前。

      ちょうど今日と同じ舞の誕生日だった。

      中学1年の春。

      その日も舞の誕生会を開いたその帰り。

      俺は彼女を連れてこの場所に来ていた。

      「神社の奥ってこんな風になっていたんだね」

      「まぁ、ここは普通なら誰もこないからな」

      湖の近くにあるこの神社の奥には何もない。

      俺達子供だって来る必要がないこの場所は俺にとって秘密の場所。

      俺がこの場所を見つけたのは3、4年くらい前だ。

      たまたまこの近くまで昆虫採集していたら、やけに夕焼けが綺麗だった。

      それが印象的で時折、訪れてはこの美しい景色を眺めていた。

      感受性豊かな少年というわけでもないが、綺麗な物は誰が見ても綺麗と感じる。

      「ホントに綺麗な夕焼け……。すごいね、ミクちゃん」

      「……この場所に連れて来たのは舞が初めてだよ」

      「そうなんだ。連れて来てくれて、ありがとう」

      俺はここに連れてきたい相手は俺の好きな相手だって決めていた。

      だから、舞をこの場所に連れてきた。

      一緒にこの景色を見て欲しかった。

      「るーちゃんは連れてこなくてよかったのかな?」

      「俺が連れてきたかったのは舞だから。留美は……また今度連れてくるから。だから、それまでこの場所は2人だけの秘密にしよう」

      それは彼女についた嘘、俺はここを留美に教える気はなかった。

      留美が嫌いなわけではなく、俺が好きなのは舞だけだから。

      彼女は俺の手をぎゅっと握って、

      「ミクちゃん、また一緒にここに来ようね」

      彼女の言葉に俺は胸の高鳴りを感じた。

      好きな相手にそう言われてドキドキしないヤツがこの世界のどこにいる?

      「ああ。そうだな、いつでもって言いたいがそれじゃ何だかな。そうだ、それじゃまた来年の舞の誕生日に来ようぜ。その方がいいよな」

      「うん、約束だよ」

      交わされたのは小さな約束。

      だが、その約束は今の今まで果たされていなかった。

      なぜなら今日という日まで彼女の誕生日は“雨”が続いていたからだ。

      何の呪いだというかのように雨ばかり。

      さすがの俺も彼女もそんな約束を忘れていた。

      あれから、5年の月日を経て今俺達はここにいる。

      2人で交わした約束どおりに。

      果たされた約束、俺達は今ここにいる。

      真っ赤な夕陽に彩られて笑顔をみせる俺の大好きな舞と一緒に夕焼けを見ている。

      「約束、守ってくれたんだ」

      彼女はそう言って俺の頬にピタッと右手を触れさせる。

      「でも、さっきまで忘れてたでしょ?」

      「そ、それは……忘れていたというか、その……」

      「冗談。私もね、今日まで忘れてたの。だけど、約束ってそういうものじゃない。普段は気にしてなくても本当に大事な時には思い出せるの。その方が喜びだって増すから」

      「そうだな」

      俺達は無事に約束を果たす事ができた。

      もしも今日は帰りが一緒じゃなかったらこの約束は果たされなかった。

      全ては偶然だが、そんなものは関係なくて運命だって信じている自分がいる。

      「……ねぇ、ミクちゃん。今日だけは我がまま言ってもいい?」

      「ああ、せっかくの誕生日だ。何でも言ってくれよ」

      「じゃ……」

      彼女の顔が俺に近づいてくる。

      「え?」

      俺は夢を見ているのか、そう感じてしまうくらいに夢心地なこの光景。

      俺は朱色が占める世界で、舞にキスさをれていた。

      唇ごしに感じるのは舞そのものだった。

      言葉も出せないままなすがままにされている。

      「……んぅ」

      小さな彼女の声に俺はそれが現実だと知る。

      誰がこんな展開を予想できただろう。

      誰もできない、できるはずがない。

      舞からキスしてくるなんて……。

      「……私も……ミクちゃんの事が大好きなんだから」

      唇を離した彼女の言葉に俺は思わず泣きそうになる。

      彼女は“今日だけ”と言ったその理由。

      それは特別な日だけ自分の気持ちに素直になるという事だった。

      「舞?」

      「ミクちゃんが私を愛してくれてるのちゃんとわかってるから。いつも私を見てくれてるの。優しい貴方が私をどれだけ想ってくれてるのか、身体全体で感じてる」

      俺の想いは彼女に通じている。

      「舞、好きだよ」

      告白して以来の彼女の“好き”だという言葉に俺は心を躍らせる。

      俺達は再び唇を重ね合わせた。

      気持ちまで重なるのは今日が初めてだろう。

      俺達のファーストキス。

      「好きな人とキスするのって気持ちがいいね」

      「……ああ」

      俺達は恋人になれない、そう言ったのは舞だ。

      だが、こんなにも想いが通じ合ってしまっている。

      例え、留美との関係を壊してしまったとしても……その先を望んではいけないのか。

      「もうダメだ。俺には舞以外を好きになる事はできない」

      「ミクちゃん……」

      「俺の恋人になって欲しい」

      俺の言葉に首を振る彼女。

      「どうして……どうしてだ。舞、教えてくれ」

      「……前も言った通りだよ。恋人にだけはなれない」

      「留美がいるから、か……」

      俺は心の中で思ってしまった。

      留美がいなければって思ってしまったんだ。

      「……るーちゃんの事、そういう言い方はしないで」

      「ごめん。だけど、俺の気持ちだって分かって欲しい」

      「わかってる。だから……今だけはミクちゃんの恋人になるから」

      俺は彼女を抱きしめながら、考えていた。

      舞がそこまでして留美との関係を守りたい、その理由は一体……?

      【 To be continue… 】

      ☆次回予告☆
      ずっと好きだった相手。
      その相手は別の少女が好きだと知った。
      報われぬ恋。
      一緒にいられる幸せ、先に進めない不幸せ。
      冷たい雨の中で、留美はただその寂しさに涙する。
      【第5話:哀しみの雨】
      冷たい雨が私を濡らす。
      誰も傍にいないその寂しさが私を襲う。

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