晋江文学城
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26、第24話:悲しき眠り歌 ...

  •   病室の隣で俺は彼女の看病をしていた。

      留美は先ほどよりは幾分穏やかな様子で寝息をたてている。

      彼女が倒れたのは重度のストレスからくる体調不良と貧血が原因だと聞いた。

      3~4日の入院ですぐによくなるらしい、俺は医師の話に安心していた。

      彼女の両親にも承諾を得て、俺は留美の看病をすることにした。

      「……留美、どうしてあんな事を言ったんだ?」

      俺は留美が倒れる直前に言った一言を思い出す。

      『……私達、もう一緒にいられない』

      もういられない、その意味は?

      俺に対して嫌気がさした、という理由だけなら納得できる。

      俺のことを嫌いになる理由は数えられるだけでも少なくない。

      それに俺は留美を本当に愛してあげられていない。

      それが彼女に対して、これだけの精神的苦痛を与え、傷つけてきたならなおさらだ。

      それ以前からも、彼女に対してないがしろな態度で接してきた俺だ。

      留美から嫌われても当然だ、それでも、留美は俺に愛情に向けてくれていた。

      ドアをノックする音に俺はドアを開けると、雄輔と隆樹がいた。

      「神保さんが入院したと聞いて驚いたよ」

      「どうやら、パッと見は大丈夫そうだな。詳しい話を聞かせてくれ」

      2人は留美の寝ている様子を見て安心そうにホッとした様を見せる。

      俺は部屋の外に出てロビーの方へと歩いていく。

      ロビーには悠里と梓が心配してか落ち着かない様子で待っていた。

      「未来君、留美は留美は大丈夫なの?」

      「ああ。ストレスによる貧血だから心配はいらないそうだ」

      「そう。それならよかったわ」

      梓は心底安心したという感じだ。

      誰もがあの日のことを思い出したのだろう、心配にならないわけがない。

      「それで、どうしてルミは倒れたの?最近、顔色は悪かったけど突然倒れちゃうほどではなかったのに」

      「ストレスの原因は……俺のせいだと思う」

      俺は彼らに自分の犯した罪の全てを話すことにした。

      舞が死んでから見たあの日記の事、留美を抱いてしまったこと。

      恋人ではないのに、今の依存するような関係になったこと。

      そして、最後にあの子から別れの言葉を告げられたこと。

      「今までお前たちに隠していた」

      「ま、傍目に見てればわかっていたから別にそれはいいんだが。それよりも、僕は未来がどうして神保さんを傷つけたのかがわからないな」

      雄輔の言葉には少々のトゲがあった。

      コイツは俺達の事を本気で心配しているためにこれほど内心怒りを感じているのだ。

      そんな彼を梓はやんわりとした雰囲気で抑えこむ。

      「未来君には未来君なりの気持ちの問題があるとは思う。それに私達も舞の事があって、貴方達がそういう風に流れてしまったのを見ているだけだったから。でも、留美の気持ちはどうなの?それを含めてもまだ受け止めてあげられないの?」

      「……わからないんだ、本当に。俺は……自分がどうすればいいのか、わからない」

      俺は本気でそう思っていた、わからない、そうとしか言えない。

      空さんや、胡桃さんにも同じことを言っていたけれど、俺はその言葉しか言えなかった。

      舞が好きだ、ホントに好きだった。

      だから……今、俺が前に進むことは……彼女を裏切るようで嫌で、それでも留美と一緒に前に進みたい気持ちもある。

      矛盾した二つの気持ちが、俺にのしかかっているんだ。

      しばらくの沈黙、皆の視線が痛かった。

      舞の事を含めても俺が留美と共に生きる方を選んで欲しいと思っている。

      「俺だってそうしたい。でも、できないんだ。どうしても、どうしても、どうしても……その気持ちに踏み込めない」

      あと一歩がどうしても踏み出せない、恐れ?同情?違う、これは心の問題。

      そう言葉にすれば、逃げのように聞こえるけれど、本当に自分でもわからない気持ちが俺を動かしている、本能、とでもいうべきか。

      「それに俺は舞と友達ではなく恋人だったんだ。俺の気持ちがわからないだろ」

      皆にはわからない、恋人と友達の間には大きな差があるんだ。

      「俺はお前達みたいに割り切れるほど、強くもなければ、薄情でもない!」

      「馬鹿やろうッ!!」

      静かなロビーに俺達の声が響いた、刹那……俺は隆樹に殴り飛ばされて、唇の端が切れて血がでていた。

      「隆樹……」

      俺は情けなく倒れたまま彼を見上げた。

      「俺達だって、水崎の事を忘れてるわけじゃない。当たり前だ、友達の事を忘れてたまるか!確かに未来ほど俺達は距離は近くなかった、ただの友達でしかないかもしれない。お前の気持ちもわかるさ、だけど、それでも俺達は現実を生きてるんだ」

      俺は唇の端をぬぐいながら、立ち上がり、彼らを見つめた。

      皆が怒っているのがその表情でわかった。

      「俺達は前に進む努力しようとしてる。お前は何だ?いつまで立ち止まるつもりだ。神保をあんな風に傷つけ続けても、まだそんな事を言うつもりか」

      隆樹がこんな風に怒るなんて、俺は知らなかった。

      彼は体格はいいが、それなりに穏やかな性格だったから。

      「私もそう思うよ、ミライ。ルミを巻き込んで欲しくなかった。ルミはミライを助けようとしていたんじゃない。必死に自分を犠牲にしてでも」

      ……悠里は俺と舞との関係を知りつつ応援してくれた子だった。

      そして、留美の気持ちにも気づいてる側の人間でもあった。

      「……私は皆が仲良くできる道を進んで欲しくて、ミライにはあえて何も言わなかった。マイとの事も、ルミとの事も。だけど、こんな事になるなら最初に話せばよかった」

      俺は悠里にはからいを無駄にしてしまったことを申し訳なく思う。

      そんな彼女の肩を叩いて、梓が俺の前に立ち、そっと俺の唇にハンカチを当ててくれた。

      俺がそのハンカチを受け取ると、彼女は言った。

      「……未来君が私と雄輔君との仲を取り持ってくれ時ね。未来君と留美が一緒になって応援してくれたじゃない。……雄輔君の事を諦めそうになってた私にあの子は諦めちゃダメって言ってくれた。まだ何もしてないのに諦めるなんて、絶対にダメだって。それはあの子自身の言葉でもあったと思うの」

      諦めたくない、それは舞の日記にも書かれていた言葉。

      『諦められるの?好きなのに』

      舞は留美のために諦めようとしてできなかった。

      留美もまた舞の事を知りつつも、諦められなかった。

      「留美は未来君が舞に対して好意を抱いているのに気づいてた。それでも何もしていないから、諦めたくない。そう思いながらも、彼女は“何も”しなかったのはなぜ?……留美ができなかったのは、どんな形でも未来君の傍にいたかったからでしょ」

      「アイツが俺が好きなのは知っていたよ。知っていたけど、その時には俺はもう既に舞が好きで、どうしようもなかった。アイツの気持ちを裏切るのも怖かった。だから、このままがいいと思ってた。その均衡を俺は壊した……」

      「それでも、留美は貴方が好きだから傍にいてくれたんでしょう?」

      本当に好きなら、例え相手に想う人がいても好きでいられるものだろうか。

      「梓の言う通りだよ。それなのに、俺はアイツに対して何もしてやれなかった。いや、しようとしなかった。そのせいで彼女は自分の中に感情を溜め込み続けていたんだ」

      例え、小さな事でも俺がしてやれば全てが彼女にとってプラスとなったはず。

      最後は雄輔が俺の顔を真剣に見ながら言う。

      「……いろいろ聞いて、僕はお前のしていた事を責めるつもりはない。お前達の事だ、悩んで苦しんでいたのは目に見えているからな。僕が言いたいのは1つだけだ」

      雄輔は……まっすぐで優しい瞳をしていた。

      「僕達の事も少しは頼れよ。僕らは親友だろ、未来。相談くらいにはのれる」

      それが俺にとってどれほど嬉しい言葉だったか。

      そう、俺の今感じている気持ち、人は言葉によって救われる。

      俺も留美に対してもっと優しくしてやればよかったんだ。

      「……ああ。ありがとう」

      俺も1度留美とちゃんと話してやる必要があるだろう。

      今までの事、そして、これからの事も。

      「……それじゃ、僕達はこれくらいで帰るよ。また何かあれば連絡してくれ」

      「わかった……」

      「今日はずっとルミの面倒をみているの?」

      悠里がそう言って俺の顔を見上げてくる。

      「俺にはそれしかできないからな」

      「それしか、か。それだけできっとルミは喜ぶよ」

      「そうだといいけどな」

      皆が俺達の事を気にかけてくれることが嬉しく思う。

      俺は皆を病院の入り口まで見送って留美の病室に戻った。

      俺が病室に戻る途中で、留美の部屋から出てきた神崎先生と出会った。

      今回は内科の担当で外科の神崎先生じゃなかったはずだ。

      「神崎先生、どうかしたんですか?」

      「あら、長谷部君。留美さんが入院したって聞いてね。心配で見に来たの。担当ではないけれど、彼女は私の患者だったから気になって。それに今日は宿直だから。キミこそこんな時間にどうしたの?面会時間は過ぎてるはずだけど……?」

      「俺が家族の代わりに付き添いです。留美の両親って結構忙しくて。それに……今回の事は俺が原因だと思いますから。俺が面倒を見ようと思って」

      「……彼女なら大丈夫よ。ストレスが溜まりやすいのも、よくある傾向だから」

      先生のその言葉に俺は表情が真剣なものに変わる。

      「よくある傾向ってどういうことですか?」

      「彼女はまだ若いからなおさらね。キミに対しての事もあるだろうし、それがストレスになってもおかしくないわ。まぁ、長谷部君にとっても大変なことだからね」

      「……先生、それはどういう意味ですか?」

      どうも彼女と俺とは話がかみ合ってなかった。

      「あら?留美さんからあの話を聞いてるんじゃないの?」

      「だから、何をですか?」

      俺が素直に疑問を口にすると彼女もそれに気づいて、

      「ごめんなさい。まだその話は聞いてなかったみたいね」

      何か重要なことがあるのか、先生の態度から俺はそう感じ取れた。

      「先生は何か知っているみたいですね」

      「そうね。……長谷部君。ちょっと付き合ってもらえるかしら?」

      俺は先生に連れられて宿直室に向かう。

      入院病棟とは違う普段は入ることのない場所。

      「ここは本来は関係者以外は立ち入り禁止なんだけど」
      そう言って中に案内されると個室の簡易ベッドルームと言った感じの部屋だった。

      「そこのソファに座って。今、コーヒーでも入れてきてあげる」

      俺はソファに座って彼女が戻ってくるのを待つ。

      「お待たせ。長谷部君はコーヒーは砂糖いる?」

      「いえ、俺はブラック派ですから」

      「結構、大人なんだ。私は砂糖なしじゃ飲めないけど」

      俺はコーヒーに口をつけると、インスタントだろうが安心する味がした。

      「それで、留美に何があったんですか?」

      俺は妙な不安に駆られて率直にそう尋ねる。

      「……その前にキミと留美さんの関係を聞きたいわ。彼女からも一応聞いてるけどね。この前にあった時は幼馴染と聞いていたけれど、今はどうなの?」

      「関係上はまだそうですよ。俺達はまだ恋人にはなれていません」

      「どうして?その言い方だとキミにも好意があるように思えるのに」

      俺は今の俺を取り巻く状況を簡単に告げた。

      一応、軽くだけど舞の話もしておくことにした。

      「そう……。あの時の子が長谷部君の本当の恋人さんだったんだ。あの子ね、最後に途切れた声で誰かに向かって呟いていたのよ。ありがと、って……。それは長谷部君に当てたメッセージだったのかもしれないわね」

      「そうですか。舞がそんな事を……」

      舞の最後を看取った先生、彼女の最後の言葉は俺に強く残る。

      ありがとう、そう言われるほどの事を俺は舞にしてやれたのだろうか。

      「留美さんとはそれ以前から関係をもっていたの?」

      「いいえ。舞が死んでからです。俺が辛いときにアイツが傍にいてくれて……」

      「なるほどね……」

      神崎先生はコーヒーを飲み終えてから、留美の現状について話しはじめた。

      「さて、どこから話そうかな。私が留美さんの担当になってから、私も少しずつキミ達の関係については聞いていたの。興味本位、というのは貴方達にしてみれば言葉は悪いけれど、ここってあんまり若い子来ないじゃない。だから、ね」

      確かにこんな田舎の病院では来ても老人かホントの子供ぐらいだからな。

      「……それにあの子は何か辛いモノを背負っている気がして。親しくなるうちに私はあの子の心の闇を知ったわ。長谷部君の事を話す彼女は楽しそうで、でも、どこか悲しそうでもあった。その意味は彼女は話してくれなかったけれど、舞さんの事だったのね」

      「俺はずっとアイツの想いを無視し続けてきてしまいましたから。舞を選んだ時点ではっきりさせておくべきだったのに」

      今はただ後悔でしかないんだけどな。

      「……本題に入りましょうか。これは本当は留美さん本人が言うべき事で、医師である私がいう事ではないわ。それでも……彼女の知り合いとして私は伝えます」

      「お願いします……」

      彼女は静かにその言葉を紡ぐ。

      「よく聞いて、考えてあげて。……留美さんは妊娠しているのよ」

      「にん……しん……!?」

      留美が……妊娠していた。

      それって、つまり俺の子供を……身篭ってる?

      俺は病室に戻り彼女の様子を見ていた。

      「留美が妊娠してたなんてな……」

      瞳を瞑った留美の顔を眺めながら、俺は先ほどの先生の言葉を考えていた。

      『最近、おかしな彼女の様子に疑問を持って、知り合いの先生に彼女を診てもらったの。そうしたら、案の定、彼女は妊娠していたわ。……そのことを気にしてる様子だったから、まさかと思っていたけれど。ホントこの時期って特にストレスとか感じやすいのよ』

      それが俺の与えていた精神的苦痛と重なり、彼女は倒れることになってしまった。

      全て俺が原因じゃないか……。

      『もしもの場合は男として責任を持て』

      いつかの親父の言葉、そうだな、俺にできるのは1つだけだ。

      今の俺のままでは彼女の世話どころか、生まれてくる子の事も何も出来ない。

      ……俺が自分の孤独を癒すために傷つけてきた結果、その罪は俺が背負うべきだ。

      留美は自分を犠牲にしてくれていのだから、今度は俺の番だろう。

      「……きっかけ1つで好きになれる、か」

      俺は留美が好きだ、もう逃げない。

      隆樹の言葉を借りるなら俺達は現実を生きている。

      舞の望みがそうだとするならば、俺は……俺のするべき事をしよう。

      「今頃なんて遅いかもしれない……。でも、俺は留美を受け入れたいんだ」

      そう留美の耳元に囁いて、俺は彼女の頬に触れた。

      冷たい身体に少しずつだが温もりが戻り始めていた。

      【 To be continue… 】

      ☆次回予告☆
      目を覚ました留美に未来は優しい笑顔を見せる。
      その笑顔の裏で彼は思う。
      己の全てを持って、自分の罪を償う、と。
      だが、それは留美にとっても悲しい事。
      未来の優しさは……留美から笑顔を消した。
      【第25話:消える笑顔】
      俺はもう逃げない。
      今、目の前の少女と共に生きよう。

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